Software Design 連載 第32回 島ソン! 電波も届かない離島でのハッカソン

 

この記事は、技術評論社 Software Design 2014年8月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第32回

第32回 島ソン! 電波も届かない離島でのハッカソン

小泉 勝志郎 Katsushiro Koizumi

Twitter @koi_zoom1

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回は宮城県の浦戸諸島で行われたハッカソンの報告です。

島ソンとは?

Code for Shiogamaは東日本大震災で被災した宮城県塩竈市の地域活性をITの力で行っていこうという団体です注1。震災復興団体とIT技術者がお互いに意見を出し合うミーティングの開催をしています。今回はCode for Shiogama/Hack For Japanの主催で2014年5月24〜25日に行った「第1回 島ソン〜浦戸諸島ハッカソン〜注2」」の模様について紹介します(写真1)。

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写真1 島ソンボード

開催のきっかけ

まだ震災から間もない2011年7月にHack For Japanでは、今回の島ソンの舞台である宮城県塩竈市の浦戸諸島を視察しました。離島であるため重機が入りづらく、震災の爪痕が強く残る中での視察注3でした(写真2)。その視察からほぼ3年が経過し、「うらとラウンジ菜の花」という人が集まるための場所が浦戸諸島開発総合センター(ブルーセンター)という研修センター内に作られました。
筆者は塩竈市の出身です。家が浦戸諸島にあるわけではありませんが、同じ塩竈で震災の被害の大きかった浦戸諸島にITの力でより貢献したいと以前から思っていました。そして、人が集まれる場所ができたということで今回の島ソンを企画しました。

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写真2 震災当時の浦戸諸島

島ソンのコンセプト

今まで筆者はHack For Japanが主催するものをはじめとしたHackathonに多く参加し、スタッフとして運営も多く行ってきました。そこで感じていたのが、①このプロダクトは本当に役に立つのか、②プログラムを組めない人が暇になる、③どんな良いプロダクトでもHackathonが終わるとそれで終息してしまう、ということです。
①を解消するために、島に住む方・島で仕事をしている方にイベントに参加してもらうことにしました。一緒にアイディアを出しあい、一緒にプロジェクトとして進めていきました。②に対しては、ガイドと一緒に島を歩いて見てもらい、島の実際を知ってもらうというイベントを入れました。
このような対策を取っているHackathonは多いです。しかし、③への対策には多くのHackathonが取り組みを見せつつも、あまりうまく機能しているように見えているものは個人的にはありませんでした。今回、ここを解決するために石巻専修大学の舛井研究室とタッグを組み、「学生のみなさんがこのイベントを通じて自分の名刺代わりとなるコンテンツを作る」という方法を取りました。舛井研究室のみなさんは経営学部なのでプログラム経験のある方はわずかです。しかし、「自分の名刺代わり」にするためにはHackathonが終わった後も活動を続けなければならない。そして、何よりこれが学生のみなさんにも就職で自分をアピールしやすい材料になります。この流れでHackathonの後も活動を続けようという試みです。

Hackは随所に!

Hackathonは野々島にある市の出先機関の浦戸諸島開発総合センターにて行われました。センターには宿泊ができる大広間があり、キッチンや体育館も備わっている施設で1泊2日のHackathonをするにはうってつけの場所でした。
が……離島だけあって電波の入りに少々難が。とはいえ、そこはハッカーのみなさん。なんとステンレスボウルを駆使して簡易パラボラアンテナを作成!(写真3) Wi-Fiがぜんぜん電波を拾わなかったのが、このおかげで動画を見られるくらいにまでに大変化が!
また、今回のHackathonでは夕食・昼食は自炊! ここでも魚捌きHackや夕食の残りを朝食のおかずにトランスフォームするなどのHackが繰り広げられました。

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写真3 ステンレスボウルアンテナ

ディスカッションからスタート 島のみなさんから話を聞く

今回の島ソンでは、仙台はもちろんのこと、東京や福島、遠くは大阪からも参加が! そして前述のとおり、石巻専修大学からの学生と島の方も含めて総参加者数はなんと47名。
参加者の全員が浦戸諸島の現状について詳しいわけではないため、島の方の話をもとにいくつかのワークショップを織り交ぜてHackathonに取り組む、というプログラムを運営スタッフの中西さんに構成いただきました。
島からの参加者は浦戸諸島で漁師をされている方、石浜区長、海産物販売をされている方などから島の現状について話をしてもらいます。区長というのは東京23区とは異なり、一般で言う町内会長に相当して行政区分の長ではありません。しかし、浦戸諸島には自治区という扱いで通常の町内会長とは異なる大きな影響力があります。
Hackathon初日は、まず島の方の話をうかがうことからスタート。このディスカッションでは「後継者問題」、「震災で海の生態バランスが崩れ漁がしづらくなった」、「島の年齢層が高く保守的なところがある」、「島と本島の塩竈を行き来する汽船の本数が少なく、島に住みながら塩竈や仙台で働くことができない」、「救急で人が倒れても救急船が来るまでに1、2時間かかる」といった話がされました(写真4)。
島の方から話を聞いた後、参加者同士で感想や疑問点を話し合い、さらに島の方への質問タイムを挟んで昼食へ。昼食は「島巡り弁当」という浦戸諸島の各島(桂島・寒風沢島・野々島・朴島)の味がすべて楽しめる豪華なお弁当です。

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写真4 ディスカッションの様子

島のみなさんとアイディアを膨らませる

午後からは話し合いたいテーマを各自が発表。漁業体験、島を利用した脱出ゲーム、浦戸諸島で採れる健康にいい海藻アカモクのPRなど、たくさんのテーマが提案されました。
そこから似たテーマを出した者や連携できそうな者同士がチームを構成して、いくつかのグループ分けを行いました。それぞれのチームでマインドマップを使って、さらにテーマを関連キーワードで広げながら掘り下げていきます(写真5)。この中でも目立っていたのが、島の方がふと発言したほら穴についての発言が広がりを見せて生まれた、ほら穴グループ。なんと婚活グループと結びついて議論という奇妙な光景も。
マインドマップを行った後、自分がHackathonでやってみたいアイデアを各々が用紙に書き込みプレゼン。気に入ったアイデアに参加者を募ってHackathonに取り組むグループ分けがなされました。

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写真5 マインドマップ

手を動かすだけではなく足も動かす! いざ島あるきへ!

通常のHackathonでは、グループ分けの後は各グループの作業となりますが、今回は先に述べたように島の方に島内を案内いただいての島あるき!
複数の斑に分かれての島あるきでは話題になったほら穴を見て回ったり、アカモクを取る現場を実際に見たり、船に乗ったりとグループによってさまざまな体験を行えました。(写真6、7)
実際に島について知る貴重な機会を得たあとは、お待ちかねの開発へ……と、すぐには行かずにまずは夕食へ。夕食は自炊なのでHackポイントです。港の街、塩竈の刺身をはじめとした美味しい海産物。そして、牡蠣やホタテのバーベキュー! たっぷりおなかを満たして果たして開発はできるのか?

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写真6 ほら穴見学

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写真7 船で島巡り

開発作業!

食事が終わってしばらくは満腹感に満たされていましたが、そこはHackerのみなさん。夜も更けるころにはみなさん真剣な表情での開発が始まりました。PCでの作業だけでなく、素材となるムービーや写真を撮りに行ったりするなど、現地にいながらにして開催されるHackathonならではのやり方にチャレンジしているチームも見られました。

そして成果発表へ

それぞれのチームのテーマと発表内容を紹介します。東日本大震災からの復興の可視化に取り組みました。

❶「ほら穴」
野々島に多数存在している「ほら穴」に着眼。廃墟マニアなどが存在していることから、ほら穴マニアもきっといるという、ほら穴を観光資源として活用するアイデア。名付けて「ほら穴るるぶ」! 実際のほら穴を使って撮影したPRムービー、旅行者と島の方がほら穴画像の投稿を通じて交流が図れるSNSサイトを提案し、スマホ閲覧機能付きのサイトのデモも行われました。

❷「謎解きゲーム」
観光資源はあるのに訪れる人が少ないという課題を受けて、複数の島から成り立つ浦戸諸島そのものに注目。謎解きゲームを開催して、若い人に浦戸諸島を知ってもらうきっかけイベントとしてはどうかというアイデア。リアル脱出ゲームの波にうまく乗れるとおもしろくなりそうです。

❸「写真」
島の紹介がされているガイドマップの情報量が少ない、見落とされているスポットが多いなどの課題があるので、それらを解決するアイデアを提案。住民の方から仕入れたネタを入れた解説付きのガイドアプリ、旅行者と島の方が写真を通じてSNSで交流できる写真アプリ、THETAを使った360度の風景スポットを見られるストリートビュー注4を発表しました。

❹「レシピ」
「島の食材+マッシュアップ」という発想から「島っしゅ。」と名付けられたアプリを披露。思いついた食材を入れてスマホを振ると浦戸諸島で採れる食材と組み合わせたレシピが表示され、表示された浦戸諸島の食材が購入までできるようにサポートされています。

❺「養殖(育てる)」
島の方の「島の物産を身近なものとしていろいろな人に知ってほしい」という想いをもとに、養殖をイメージした育成ゲームを想定していたものを、ターゲットや内容のハードルの高さから方向を変えて、海産物が購入できる「海の子ネットオンラインショップ」を多くの人に広めていくアイデアを提案。おねだり機能を実装して、おねだりコメントがFacebookに投稿されるといった「一緒に食べよ」というサービスを発表しました。

❻「アカモク」
Facebookページ、Twitterボット、NAVERまとめ、萌えキャラといったツールを使って浦戸諸島で採れる海藻アカモクをPRするアイデアをそれぞれ実際に作成して披露注5。萌えキャラは「渚の妖精ぎばさちゃん(ギバサはアカモクの別名)」としてクラウドソーシングサービスにてコンペでイラストを募集。イベント終了後の6月16日には総応募数31点とかなりの人気案件に。今回は図1のイラストを採用しました。

図1 ぎばさちゃん

図1 ぎばさちゃん

❼「新しい交流文化」
浦戸諸島について知らない人が多く、まずは興味を持ってもらうことから始めるために聖地化するというアイデアを提案。浦戸諸島をモチーフにした「Island Girls」というキャラを考えました。アドベンチャーゲーム、チャットといったキャラを使ったバーチャルなコミュニケーションを手始めに、浦戸諸島を訪れるとARデートができるプランを発表し、これらのイメージPVを作成しました注6

◆ ◆ ◆
上記7つのアイデアを発表して島ソンは終了となりました。今回の島ソンでは島の方に話題提供者となって参加いただくだけでなく、マインドマップ作成や島見学などに協力してもらったことで、一緒に取り組んでいくHackathonとなりました。
イベントを終えて

島ソンは筆者からの次の言葉で締めました。
「こうやって地方でハッカソンなどイベントを起こしても、イベントが終わったらそれで終わりというケースが多いです。ここでハッカソンをしたことにもっと意味を持たせるためにも、今回ここで出たアイディアや作ったものを、これからも継続していきましょう。」
そう。イベントが終わったら終わりではなくここからが始まりなのです!
謎解きチームは実際にイベントの企画を始めPVを制作しました。新しい交流文化のチームはプロジェクトI.G.として毎週集まってゲームを作り始めています。アカモクチームもぎばさちゃんのデザインのほか、Facebookページにアカモクの販売促進のためのコネクトを作るなど精力的に活動が行われています。これからほかのチームでも新しい成果が続々出てくるでしょう。島ソンはHackathonだけでは終わらないHackathonなのです。
最後に今回のHackathonでも多くの方々に協力をいただきました。島の方や参加いただいた方はもちろんのこと、食事のサポート、事前準備に時間を割いてくださった方など、関係くださった皆さまにあらためて感謝いたします。

最後に

Code for Shiogamaでは、復興に携わっている方とIT技術者が議論することで生まれる化学反応を生み出したいと思っています。今後も定期的に開催していきますのでよろしくお願いいたします。

脚注

注1) https://www.facebook.com/CodeForShiogama

注2)http://tohoku-dev.jp/modules/eguide/event.php?eid=255

注3)2011年7月の浦戸諸島視察の模様

注4)野々島ストリートビュー

注5)アカモクbot

注6)イメージPV

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CC-BY-NC-ND

Updated on 2 24, 2013 by Seigo Ishino