Software Design 連載 第18回 Hack For Japanスタッフ座談会[前編]
この記事は、技術評論社 Software Design 2013年6月号の転載です。 記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。 |
Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
第18回Hack For Japanスタッフ座談会[前編]
東日本大震災から2 年が経過しました。ITで復興支援を考えるHack For Japanとして活動を続けていくにあたり、「これまでの振り返りと今後に向けた決意」をテーマにスタッフで座談会を開きました。当日は約2 時間、盛りだくさんの内容となったため今号と次号の2 回に分けてお送りします。
参加者紹介
(Hack For Japanスタッフ)
及川 卓也
Hack For Japan の立ち上げメンバーの1 人。普段はGoogleでChromeを担当しているほか、知り合いのスタートアップやNPOに助言を与えたりしている。今回はGoogle Hangoutで参加。
小泉 勝志郎
サンキュロットインフォ代表。スマートフォンアプリ開発関連の事業を行う。震災で失業者が多い南相馬でアプリ開発者育成をした。震災復興では「うらと海の子再生プロジェクト」にてIT 関連を担当。
岩切 晃子
(株)翔泳社勤務。毎年開催されているデブサミを運営。岩手県釜石市出身でHack For Japanの活動で岩手とのパイプ役として奮闘している。
鎌田 篤慎
普段はヤフー(株)が公開するAPIなどの利用促進、デベロッパリレーションなどを業務としている。Hack For Japan では復旧復興支援データベースAPIへの改善要望をまとめ、国に提言した。
佐々木 陽
会津若松の(株)GClueの代表取締役。Android、iOS アプリケーション開発が主な事業。未来の主戦力となるエンジニアを育てるため、大学生などに教える活動を10年間行っている。
佐伯 幸治
Hack For Japanではコピーライティングをおもに担当。普段はフリーランスとしてWebや紙媒体の編集制作・コピーライティングに携わっている。
関 治之
Georepublic Japan 社CEO。Geo Developerとして位置情報系のサービスを数多く立ち上げてきた。Hack For Japan では、復興マッピングやオープンデータハッカソンなどを実施している。
石野 正剛
震災直後に福島第一原発から放出される放射性物質と風向きを地図上に可視化するスマホアプリ「風@福島原発」を開発した。富士通(株)でソフトウェアのUXデザインを担当している。
高橋 憲一
普段は(株)スマートエデュケーションのエンジニアとしてiOSやAndroidの子供向け知育アプリ開発を行っている。最近は東北TECH道場の講師として宮城県の石巻を頻繁に訪れている。
昨年度の振り返り
高橋:まずは昨年度、3月までの振り返りから話していきたいと思います。印象に残ったイベントや出来事などあればお願いします。
宮城、福島での活動
佐々木:石巻の「IT Bootcamp注1」に皆で行けたのは面白かったですね。あとはHack For Fukushimaとしては活動が停滞しているので、そこは反省すべき点だったと思います。どうして停滞したかを考えてみると、昔は福島は静かなところなので結構のんびりと仕事をしていたんですね。震災後の1年目は良くも悪くもいろいろな人が来るし雑音も入るしで、かなりハイペースになっていたんです。いろんなものが。2年目は余韻で土日は休もうかという雰囲気になっていたように思います。そして3年目は元どおりのペースでできることをやっていこうかという感じになり、そういった反動でゆったりしすぎていた感はありますね。
高橋:会津では今年はHack For Japanのイベントをやることができていなかったですね。
佐々木:確かに会津ではやっていなかったのですが、会津大学のイベントや「ABC注2」もありましたよね。そちらのほうの準備に追われていた感はあります。あとは石巻のBootcampも結構準備に時間はかかりました。
関:福島全体としてほかのコミュニティなどからのITによる支援はあったのでしょうか。
佐々木:福島は広いので地域ごとに独立していて、そのハブになるような人がいなかった状況です。あとはイベントをやっても人を集めるのが大変になってきたように感じます。たとえば、モバイルクリエイターズサミットで実施したビジネスプランコンテストは賞金も用意して復興3県(岩手、宮城、福島)で開催しました。現地では地元の人が協力してくれて集まるのですが、東京で決勝戦をやったときは事前登録で100人を超すのが大変でした。東京でモバイルコンテンツ系のイベントをやると200人くらいは楽に集まるのですが、復興系のイベントで人を集めようとするとなかなか大変です。IT業界と復興支援のボランティアをやっている人とは意外と距離があるのではないかと感じています。
鎌田:去年「エフスタ注3」さんのイベントをYahoo! Japanでやったときは集客は盛況でした。
小泉:どういうリーチのさせ方をするかにもよると思います。今年の3月11日に仙台で「ITで日本を元気に」の佐々木賢一さんがやったイベントでは、平日にも関わらず150人くらい来ていました。以前ほどは集まりにくくなっているとは思うのですが、持って行き方次第だと思います。
OpenStreetMapの課題
岩切:私の活動報告としては、岩手で3月、5月、9月にOpenStreetMap(以下OSM)のイベントを3回やりました。世界で活躍するOSMマッパーの方々を岩手で案内することもやりました。ほかには、ITの縛りを除いて岩手で頑張っている人を応援するイベントをやってくれないかと岩手側から打診を受けて、「いわて未来Meetup」を11月に盛岡で、2013年3月には東京でもやりました。
OSMについてはもう一度総括が必要ですね。OSMの東京側の人の熱意はあるのですが、地元ですでに復興支援のことで頑張っている方々にさらにOSMの作業をやってもらうというのは、ハードルが高いのではないかと感じています。本当に必要なのは岩手側で何か困ったことが起きたときに、技術者同士が連携できるしくみが求められていると思うのですけれども、2013年はそれに取り組めたらいいなと思っています。
一方、「いわて未来Meetup」で感じたことは、スタートアップの仕事を流されてしまった人たちが被災地でもう一度起業したり、何かプロジェクトを起こしたりということをやっているところではITはすごく使われているということです。Microsoftが支援して学校を開いてくれたり、Matz注4が来てくれたりとニュースには事欠かないのですが、そういうことを上手く使って東京で稼ぎたい人たちをつなぐ活動もしていきたいです。
高橋:OSMで復興する街を記録するイベントは、今度は石巻でもやりますよね。
関:OSMとして復興マッピング活動は初めての試みだったし、可能性はまだすごく感じています。反省としては、やはりコミュニティ活動なので地元で理解して主導してくれる人がいないとなかなか上手くいかないということです。いつまでも遠隔地からのサポートでは続かないです。
一方で、復興マッピングの活動が仕事に結びつくかというと、なかなかお金にはならないので継続するためのハードルが高いという課題もあります。出口としては“印刷”が1つのポイントだと思っています。今でも手書きの地図を配布している人がいたりと、紙地図のニーズは高いので、印刷ツールがあると役に立つと思っています。そのためのツールの整備はやりたいです。お金にならなくてもそれが役に立てば良いと思っています。次の石巻ハッカソンでは印刷して配れるところまでは見せたいですね。結局、地図を充実させても使えなければ意味がないので、シンプルに小さく回るプロセスを1つ作ろうかなというところです。
OpenDataへの取り組み
関:ほかに挙げられるのは、本連載でも何度か取り上げているように、OpenData関連のハッカソンが発展していっていることです。この活動をやっているうちに防災関連のさまざまなところから声をかけてもらいました。たとえば消防庁からは、大規模災害時におけるSNSなどによる緊急通報のあり方を検討する委員会に呼んでもらって、大規模な災害が起きたときに電話が通じなくなっても緊急通報がTwitterなどから送れるようにしようというワーキンググループに入れていただきました。あとは内閣府がやっているOpenData推進のIT戦略会議の委員をやらせていただいたりと、しくみを変える部分からいろいろ関われるようになったという変化が起こっています。
岩切:昨年6月の復旧・復興データベースAPIハッカソンと、今年の2月にもやったOpenData のハッカソンは国からも人が来ていたし、東京でできる意義のある活動だったかなと思います。
関:経産省の人たちも「あれは良かった」と言ってくれています。
鎌田:OpenData活動については、震災当時データがオープンではなかったために力が発揮できなかったエンジニアがすごく多かった印象を持っているので、ここはお手伝いしていきたいと思っています。全体としては、ハッカソンであまりにも成果を求めすぎていたのが1年目で、2年目はその中で試行錯誤していたということかなと思うのですが、ハッカソンを継続的にやっていくことでエンジニア同士の緩やかなつながりを持ち続けるコミュニティができ上がっていくことのほうが、今後の震災に備えるという点で意義があるかなと思います。OpenDataもその流れでどんどん出て行くような流れを作れれば、次に何かあったときへの備えという点で、人の面でもデータの面でも形付けられるのではないかと思っています。先日読んだCode for AmericaのHacking the Hackathonという記事の中でも、「アウトプットを求めすぎず、コミュニティの形成が大切」ということが挙げられていて、こういう活動を通してエンジニア同士がつながっていくことや、メンターを探そうという意識はいろいろな課題を解決する枠組みになるのではないかという気がしています。
関:まさにコミュニティが大事だと思っています。最近はOpenDataハッカソンをやると毎回来てくれる人もいますし、何よりいいのはエンジニアと行政とGLOCOM注5のような公共を改善しようとしている人たちが集まった結果、顔見知りが増えてきて動きやすくなっています。
コミュニティ形成の重要性
岩切:そういう活動を見て「参加したい」と思ってくれる人も増えるような気がしていて、デブサミ注6でITによる復興支援系のコンテンツをいくつか入れたのですが、集客は悪くなかったです。皆さんの関心は冷めてはいない、一時ほどの熱はないもののむしろ冷静に見ることができている人が増えていると思いました。
関:あのセッションを聴いて、spending.jpのしくみを使って自分の街の税金がどのように使われているか可視化する“Action注7”をしてくれた人がいたのも良かったですね。
岩切:佐伯さんの復興イベントカレンダー注8もいいですね。
佐伯:復興イベントカレンダーを作った理由は、自分が東京で何ができるのかという思いがあったのと、イベントの日付が手軽に作れるしくみを作っておくと減災に役立てることができるかと思って、コンパクトに作れるしくみを運用してみようと考えました。これが形になれば被災地で使える可能性もあると思ってやっています。あとは、ちょこちょことネタを落としていくとコミュニティの活性化につながるかなという気がしてやっています。
高橋:石野さんのスキルマッチング注9のほうは何かありますか?
石野:12月から登録を開始して、Facebookではあまり盛り上がらなかったので登録者メーリングリストを作りました。今のところ25人の登録があり、スキルの高い方にも登録していただいています。もし被災地でITの手を借りたいという方がいたら、すぐにでも申し出ていただければと思っています。
佐伯:思った以上に知られていないのではないでしょうか。
石野:まだ登録者が少ない状況で、あまり大っぴらに言えないかなというのもあります。
高橋:そこは鶏と卵の話に近い気がしますね。
佐伯:「スキルマッチングやってます」ということをほかの人に向けてもっと伝える必要があると思います。
岩切:「遠野まごころネット注10」が東京支部を作って活動していて、毎週水曜に「まごころカフェ」という場で今の復興支援の話をやっているのですが、すごく良いコンテンツなのにUStreamを使える人がいないので広く公開できないといった、プログラミング以前に、ITに詳しい人が必要とされている場面もあるので、潜在的なマッチングの需要はかなり多いと思います。
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次号の後編では、福島の問題に対して我々ができること、教育活動、今後に向けた決意についての話を展開していきます。
注2) 日本 Androidの会主催のイベント、Android Bazaar and Conferenceのこと。2012年10月はICT ERA+ABCとして仙台で開催され、Hack For Japanでも2つのセッションを担当。
注8) 都内&近郊で開催される復興イベントをお知らせする取り組み。Facebookのほか、TwitterやGoogleカレンダーでも運用中。 URL http://www.facebook.com/fukkouevent
注9) 復興支援などに対してITを活かして貢献したい方と支援を必要としている方とをつなぐための取り組み。 URL http://blog.hack4.jp/2012/12/blog-post.html
注10) 東日本大震災で被災した岩手県沿岸部の被災者の方々を支援するべく、遠野市民を中心として結成されたボランティア集団。 URL http://tonomagokoro.net/
Updated on 12 20, 2013 by