Software Design 連載 第45回 防災・減災とIT 〜SNSとメディアの取り組み編〜

この記事は、技術評論社 Software Design 2015年9月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第45回

防災・減災とIT 〜SNSとメディアの取り組み編〜

Hack For Japanスタッフ
佐伯 幸治 SAEKI koji
Twitter @widesilverz

SNSにおける取り組み

東日本大震災以降、災害時におけるTwitterやFacebookといったSNSの有効性は多くの方が実感されているでしょう。この流れを受けて、各SNSは災害時に利用できる機能を実装する動きが見られます。またユーザ自身がSNSの機能を活かして災害に備えたり、復旧活動につなげるという利用方法も見受けられるようになりました。著者が把握している動きを以下にまとめてご紹介します。

Facebook

Facebookでは2014年10月に「災害時情報センター注1」を新機能として発表しました。この機能は「Facebook上でつながっている友達や家族に自分が無事であることを知らせる」、「災害の影響を受けた地域にいる人の安否を確認する」、「Facebook上でつながっている友達の無事を報告する」という3つがあり、最近ではネパール大震災で利用されました注2。紙幅の都合で、詳しくはFacebookの紹介ページをご覧いただきたいのですが、この機能は東日本大震災をきっかけにして生まれたものです。
また、Facebookは2015年3月に「Facebookを活用した災害対策と対応注3(写真1)」というガイドを発表しています。ガイドは「災害時対応と災害支援を担う組織のためのヒント」、「救助隊と行政機関のためのヒント」、「個人とコミュニティのためのヒント」の3つで構成されている内容で、それぞれの立場から投稿や写真・動画の利用目的がどういったものであるべきかが述べられており、「Facebookを災害時にどのように使うか」の指針として参考になる情報が盛り込まれています。

写真1 「Facebookを活用した災害対策と対応」表紙

Twitter

Twitterでは2013年9月に新機能としてTwitterアラート注4を開始しました。この機能は、信頼性のある機関・団体からアラートのマークを付けて出された重要なツイートを、スマートフォンのプッシュ通知で受け取ることができるものです。
ここで定められている“信頼性のある機関・団体”とは、一般市民に向けて緊急情報を提供する国、地方、および国際機関としています。具体的には「警察および安全対策機関」、「緊急通報受理機関」、「地方自治体およびその付属機関」、「地方自治体の業務を担う郡または地区の行政サービス機関」、「特定の政府官公庁、民間非営利団体」と限定され、原稿執筆時点(2015年6月)では104機関・団体のアカウントがTwitterアラートに登録されており、「警視庁警備部災害対策課」、「東京消防庁」、「新潟県長岡市危機管理防災本部」など、さまざまな機関・団体が確認できます。興味のある方は一度リストをご覧になって、気になる機関・団体をフォローしておくことをお勧めします注5
このTwitterアラートは、Twitterで情報提供をする側にもメリットがあります。想定されるのは各機関・団体のTwitter運用担当者が被災したケースで、災害時、担当者は必ずしもオフィスにあるパソコンを使ってツイートできる場所にいるとは限りません。そのためTwitterアラートでは、パソコンと携帯電話・スマートフォンからの緊急情報を発信可能としており、また専用のツイート作成ボックスを使用してアラートツイートを作成、重要なツイートとしてタグ付けすることができます。
そもそもTwitterは、ほかのSNSに比べて東日本大震災時から多くのユーザに利用されていた経緯から、都道府県・市区町村といった自治体でのアカウント導入が進んでおり、平時から生活やイベント情報と同様の扱いで、大雨の際の注意を促すなど災害情報を市民へ向けて発信しているアカウントも見られます。Hack For Japanスタッフが参加して立ち上げた「減災インフォ(詳しくはコラム参照)」のTwitterアカウントでは、災害情報を発信している自治体のアカウントを活用しやすいように都道府県別にリスト化しています注6
こうしたTwitterアラートやTwitterアカウントリストの利用以外にも、ハッシュタグやGPS情報を組み合わせた利用方法も検討されています。たとえば埼玉県和光市では、2014年2月に和光市の災害に関するハッシュタグを「#和光市災害」と定めることを公式発表し、防災訓練にてハッシュタグを活用する取り組みを始めています注7。この和光市の取り組みにならって市区町村レベルで災害時ハッシュタグの活用が広がりを見せており、「#宇部市災害」、「#北本市災害」、「#狭山市災害」、「#清瀬市災害」、「#金沢区災害」、「#御嵩町災害」といったハッシュタグが導入されています。
公的機関以外では、群馬県建設協会アカウントのTwitterでの発信が一例として挙げられます。『2014年2月の記録的な大雪の際、除雪の様子をツイッターで発信したところ大きな反響があったことから、一般向けの広報活動に生かせると判断。同協会の「災害情報共有システム」を刷新し、現場からの情報をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で簡単に発信できる機能を追加した。(引用元:日経コンストラクション)』とあるように、群馬県建設協会は、平時からパトロールなどの状況をGPS情報付きで発信、災害時への備えとしています注8(図1)。

図1 群馬県建設協会アカウントのツイート

LINE&Instagram

現状、筆者の周囲での防災・減災情報のSNS活用としては「Twitterで情報発信・収集→Facebookグループでコメントをやりとりして情報を深掘りする」といった使い方が多いように思われ、LINEとInstagramについては、これから活用されていく印象を持っています。しかしながら平時からLINEは多くの方が利用しており、また海外ではInstagramの利用が多いということを考慮すると、これらも軽視できません。
LINEについては、オープンなパブリックアカウントとして運用可能なLINE@の自治体での導入が見受けられます。一例として挙げると埼玉県、滋賀県大津市危機・防災対策課、大阪府柏原市などがアカウントを取得しており、福岡県大野城市による「市民のみなさんへ、防災訓練をお知らせする連絡網」として活用されている事例がLINE@のブログで読むことができます注9
Instagramについては国内での活用事例は目立っていないのですが、海外ではネパール大震災の際に、ネパールやインドの写真家たちが立ち上げた「ネパールフォトプロジェクト」がハフィントンポストやwiredで取り上げられており、原稿執筆時点で約6万人のフォロワーを集め継続的に投稿されています注10。また補足ですが、ネパール大震災ではドローンによる被災状況を空撮した動画がSNS経由で拡散されていったことも注目に値します。ドローンによる取り組みは日経新聞でも取り上げられ、今後は利用規制との折り合いをどのようにつけるかが課題として挙げられます注11

メディアにおける取り組み

メディアでは、NHKのITを利用した防災・減災への取り組みが目立っているようです。大きなトピックとしては3つ挙げられます。
1つめは5月に起きた口永良部島噴火でのネットとテレビの同時配信の試みです。NHK総合テレビで放送中の番組がNHKオンラインで同時配信されるというもので、テレビのない状況でもインターネットにつながってさえいれば、現地の避難状況を見ることができました注12。なお原稿執筆時点において、箱根山の噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)から3(入山規制)へ引き上げられたことから、NHKはライブ映像を公開しリアルタイムでの状況を伝えています(図2)。

図2 NHKによる箱根山ライブ映像

2つめは『データジャーナリズムの新番組「データなび注13」と、NHKが制作した報道のWebサイトを紹介するポータルサイト。ビッグデータの解析などでつかんだ新たな発見を分かりやすく伝えます』(番組紹介より)とした「データなび」サイトを4月にオープンしたことです。このサイトではテーマとして災害が設けられ、口永良部島噴火、御嶽山噴火、震災ビッグデータ、原発事故といった切り口でデータを元にしたコンテンツが見られます。
3つめとしてNHKは「ソーシャル・リスニング・チーム(Social Listening Team=SoLT:ソルト)」というプロジェクトを2013年に発足させています。これは複数人でTwitterのタイムラインを観測して、事故やトレンドの端緒を迅速につかみ報道につなげることを目的とした取り組みとして始まりました。現在も試行錯誤している段階のようですが、災害時での活用も想定されています注14。NHKの災害情報についてはTwitterアカウント「NHK生活・防災(@nhk_seikatsu)」で発信されています。
こうしたNHKの試みをきっかけにした民放各局、新聞、ネットメディアによる災害対応やそれぞれの連携も今後、期待されるところです。
◆ ◆ ◆
以上、「防災・減災とIT」として今回はSNSとメディアでの取り組みをご紹介しました。これら以外にもYahoo!防災速報注15や自治体の災害対応アプリ注16、JAXAによる標高データの無償公開注17、災害対応のための自治体サイトの改善注18など(技術評論社からも『[オープンデータ+QGIS]統計・防災・環境情報がひと目でわかる地図の作り方注19』が発売されています!)、さまざまな分野で多様な取り組みが見られますので、またの機会に紹介したいと思います。


Column「減災インフォ」について

Hack For Japanスタッフがかかわっている「減災インフォ」というプロジェクトが始まっています。6月にはサイトをオープンしており、減災に関するさまざまな情報を発信していく予定です(図A)。現在サイトでは「ブログ」、「自治体と地域メディア」、「災害復興ボランティア」、「災害の種類とこれまで」、「勉強会」、「減災友達の輪☆」といったコンテンツを用意しています。ブログでは「災害時の情報まとめ(口永良部島噴火情報など)」、「イベント関連レポート(Twitter勉強会レポートなど)」、「メディアやSNSに関する減災情報まとめ(市町村のTwitter導入状況など)」といった記事を公開しています。
イベントの1つ、Twitter勉強会ではTwitter社の協力を得て災害時におけるTwitterの使い方を学ぶ場を開催したり、減災情報のまとめでは自治体のTwitterアカウント導入状況をまとめるといった活動を行いました。今後もイベントなどを考えていますので、興味ある方はご参加ください。
「自治体と地域メディア」では、信頼できる情報を収集して減災につなげていくため、都道府県別・市区町村別に信頼性のある情報発信元を調べてリンクで一覧にしています。お住まいの地域でどのような情報サービスが提供されているか、入手可能かを調べておくことができます。ぜひお住まいの地域について確認してみてください。
減災インフォはTwitterでも随時、情報発信しています。アカウントは@gensaiinfoです。皆さんのフォローお待ちしています!

図A 「減災インフォ」Webサイト

http://www.gensaiinfo.com/


脚注

注1) 災害時情報センターのご案内 http://ja.newsroom.fb.com/news/2014/10/safetycheck/
注2) https://www.facebook.com/safetycheck/nepalearthquake
注3) http://ja.newsroom.fb.com/news/2015/03/facebook_disaster_response/
注4) https://about.twitter.com/ja/products/alerts
注5) https://about.twitter.com/ja/products/alerts/participating-organizations
注6) https://twitter.com/gensaiinfo/lists
注7) 災害時におけるツイッターハッシュタグの利用について
http://www.city.wako.lg.jp/home/kurashi/bousai/bousaitaisaku/_13853.html
注8) http://www.gun-ken.or.jp/anshin.html  https://twitter.com/gunken000
注9) 「防災訓練のお知らせ」福岡県『大野城市』の市民を守るメッセージ
http://blog.lineat.jp/archives/25032901.html
注10) HELPING NEPAL’S QUAKE SURVIVORS—WITH INSTAGRAM
http://www.wired.com/2015/05/tara-bedi-sumit-dayal-nepal-photo-project/
ネパール大地震でSNSを使った復興プロジェクト「写真や動画が災害時に機能するかどうかの試み」
http://www.huffingtonpost.jp/2015/05/13/nepal-instagram-plays-vital-role-_n_7280128.html
注11) Drone Films Bird’s-Eye View of Nepal Quake Devastation NBC News
https://www.facebook.com/NBCNews/videos/1070798179606878/
ドローン、ネパールに集結 地震被災状況を空撮で把握、対応力欠く国を世界が支援
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO86898300W5A510C1TZN000/
注12) NHK、テレビ放送をネット同時配信 口永良部島の噴火受け
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1505/29/news082.html
注13) http://www.nhk.or.jp/d-navi/
注14) 震災ビッグデータからソーシャルリスニングへ
http://www.nhk.or.jp/bunken/book/regular/media/media11/2_06.pdf
NHK報道局が実践している「ソーシャル・リスニング・チーム」とは?
http://www.gensaiinfo.com/blog/2015/0710/2076/
注15) Yahoo!防災速報、「土砂災害警戒情報」「指定河川洪水予報」の提供を開始
http://news.mynavi.jp/news/2015/06/19/277/
注16) 防災アプリ:好評 行政オープンデータ活用 埼玉・北本市
http://mainichi.jp/select/news/20150526k0000e040203000c.html
注17) 世界最高水準の全世界標高データ(30m版)の無償公開について
http://www.jaxa.jp/press/2015/05/20150518_daichi_j.html
注18) 災害対策&セキュリティを強化、茨城県公式ホームページがリニューアル
http://www.rbbtoday.com/article/2015/04/03/130117.html
ホームページ一新 災害情報見やすく スマホ対応も 名張市
http://www.iga-younet.co.jp/news1/2015/04/post-877.html
注19) http://gihyo.jp/book/2014/978-4-7741-6913-2

 

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