Software Design 連載 第37回 第2回ITx災害会議レポート

 

この記事は、技術評論社 Software Design 2015年1月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第37回

第2回  ITx災害会議レポート

Hack For Japanスタッフ

及川 卓也 Takuya Oikawa
Twitter @takoratta

高橋 憲一 TAKAHASHI Kenichi
Twitter @ken1_taka

鎌田 篤慎 KAMATA Shigenori
Twitter @4niruddha

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回は2014年10月に開催された「第2回 ITx災害会議レポート」の模様をお届けします。

災害へのIT活用を考える会議

ITを活用した復興支援や防災/減災を行っている人たちをつなぐためにスタートしたのが「ITx災害」コミュニティです。2013年の10月に第1回の会議を行った後、Facebookグループなどで情報交換などを行っていましたが、2014年の10月に第2回目の会議を行いました。

第1回目の会議以降、いくつかのプロジェクトが立ち上がりました。また、東日本大震災以降も雪害や水害など多くの自然災害が日本を襲っており、それらに対してのITからのかかわりを考える機会も多くありました。そこで第2回目となる今回は、実際に動き出そうという意味を込めて、テーマを「つながりx動く」としました。

今回はこの第2回 ITx災害会議の模様についてお伝えします。

午前中のショートスピーチ

会議の午前中は10名の方から「ITx災害コミュニティに期待すること」、「現在進めているプロジェクトの紹介」、「支援活動を通じて見えてきたこと」など、多岐にわたるテーマでショートスピーチを行っていただきました。Hack For Japanからもスタッフの及川がこれまでの経緯と翌週のCode for Japan Summitの中で行う防災・減災ハッカソンについて案内をしました。

登壇された方(敬称略)とその概要は、次のとおりです。

東京大学CSISとしての東日本大震災以降の取り組み〜地理空間情報と復興・防災・減災

・古橋 大地・瀬戸 寿一 東京大学空間情報科学研究センター

「東日本大震災以降、地理空間情報がどうやって世の中の役に立てるかという観点で、復興支援アーカイブ、NHK震災ビッグデータ、アーバンデータチャレンジなどに取り組んできました。世の中を今よりももっとよくするために、地理空間情報を必要とするすべてのコミュニティを応援します!」

情報支援レスキュー隊 IT DARTの活動

・佐藤 大 IT DART

「現地に入って被災地の状況を把握し、後方支援チームと連携して被災地の外にいる支援を考える団体が動きやすくなるよう情報発信をしていくのがIT DARTの活動の目的です。災害後100時間の緊急活動の中で被害や避難の状況、支援ニーズ、各支援団体の現状などを収集します。」

支援者のための情報発信〜平時、災害時の痛み悲しみを減らすために情報ができること

・小和田 香 IT×災害情報発信チーム

「誰のための情報を届けるかということが大切。自分たちは支援者のための情報を届けるために活動を始めました。ITx災害情報発信については災害時に信頼性あるメディアから情報を収集、発信します。災害時自治体Twitter調査が2014年9月のNHK NEWSWEBで紹介されました。各地域のキーマンをつなぐこともやっていきたい。」

災害時におけるIT支援活動の成果と課題〜調布、大島、前橋、広島での事例

「被災地の災害ボランティアセンターに入って、Webサイト作成支援などを行ってきました。直近では広島の災害でも活動しました。公式サイトを公開すると問い合わせの電話の数が激減(3〜4割)します。電話の問い合わせ内容はだいたい決まってるので、FAQの効果が大きい。」

大槌における支援活動を通じて感じたこと

・臼澤 良一 遠野まごころネット

「被災地では雇用の喪失、高齢化、コミュニティ不全、農業漁業の衰退、インフラの不備などの問題があります。きめ細やかな支援には、他の地域の事例ではなく現地に入り被災地の声に耳を傾け、その地域に息づいているものを掘り起こすことが重要です。」

震災対策アプリ「ホイッスル on Android」〜小さなコード、大きな成果

・安川 要平 ヤスラボ代表

「震災直後に“ホイッスル on Android”という震災対策アプリを開発しました。生存確率をあげるためにあなたに代わってSOSを発信するアプリです。笛はあると良いけどみんな持ってない、持っているものに笛が付けばというところから着想し、30行という短いコードで実現しているのですが、30万という数のダウンロードがありました。要望はいろいろといただくのですが、シンプルさを心がけてきました。」

災害時に生き残るための知識を共有できるサービス

・中塩 成海 一般社団法人イトナブ石巻 理事

「石巻で被災した実体験から災害時に生き残るための知識を共有できるサービスを開発しました。災害発生時は少なくとも1週間は自分で生きぬかなくてはいけない。そのようなサバイバル状態の災害時に必要な情報を被災前から考えられる場を提供し、被災時に速やかに共有します。Race for Resilience注1からスタートしたプロジェクトで、ネットが止まっても印刷物を提供・拡散するようなものを考えていきたい。」

すごい災害訓練DECOの紹介

・田口 空一郎 すごい災害訓練DECO

「災害対策には人材育成が最も重要で、自助のためのコーチングのしくみで目標に近づけていくしくみです。311の災害経験をどのように継承していくか、防災教育プログラムの開発を考えていたことがきっかけでした。iPadを使った災害対応訓練などを実践しています。」

災害の経験から得た、災害発生時に備えた虎の巻

・津田 恭平 一般社団法人イトナブ石巻 理事

「『まさかここまで津波がくるとは思わなかった』という実体験から万人が知識を持つことが防波堤を作ることよりも重要と考え、危険度を認識してもらうためにRace for ResilienceでFloodARというアプリを開発しました。ARアプリ上のアバターと同じ速度で歩くことで実際の避難にかかる時間を実感できるようになっています。」

昼飯とアンカンファレンス

午前中のショートスピーチの後、昼食には「模擬の炊き出しの体験」としてパックの弁当となめこ汁が提供されました(写真1)。昼食を担当いただいたいのは、小林幸生さん(NPO連携福島復興支援センター)です。なめことネギはいわき市産のものを使っています。

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◆写真1 昼食のお弁当

 

昼食に入る前に、午後のアンカンファレンスの進め方が説明されました。参加者は事前に配布された付箋紙にトピックを記入し、スタッフに手渡します。それをスタッフが昼食の間に整理します(写真2)。

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◆◆写真2 アンカンファレンスの時間割を検討中

スタッフによる整理の結果、アンカンファレンスの時間割は表1のようになりました。

◆表1 アンカンファレンス時間割

◆表1 アンカンファレンス時間割

アンカンファレンスまとめ

午後のアンカンファレンスの成果を紹介します。

「オープンデータ・官ができること」をテーマにした議論では、データを使って災害の経験をどのように伝承していくかを議論しました。著作権やその他のしがらみを乗り越えていくためにクラウドソーシングを活用し、権利関係に配慮したデータ作成の提案がされ、また、何をどのようにオープンにしていくかといった観点でのデータ形式や運用の必要性を訴えました。

「災害時情報発信」の発表は情報発信の観点を誰に(Who)いつ(When)どんな情報(What)をどうやって(How)届けるかを軸に議論しました。被災地域とそれ以外の地域や受け手の情報感度などの分類を行って、被災地からの生の情報発信が重要になるのではないかという仮説から、情報発信にITの力を使って付加情報を加えていくアイデアが出されました。

「マイノリティ・ハンディキャップ」をテーマにした発表は、日本で被災した外国人や障害を持つ人のような要援護者に対して、どのような支援ができるかを議論しました。そのような要援護者に対する情報の受発信や、情報を受け取った後の行動に結びつけるためのリテラシー格差を埋めるため、予防的な情報の整理や事前の情報公開を平常時に実施していくという施策を発表してくれました。

「災害ボランティア」の議論の発表では、ボランティアを運営する側としても、被災地外からボランティアにかかわる人々に求められる意識をあらかじめ明示しておく必要性を訴えました。受け入れ側の体制構築や継続的にボランティアを集めるために、わかりやすさと受け入れやすさを事前に用意する視点が大切と訴えました。

「連携」をテーマに議論したチームでは、組織間の連携時に起きる問題について発表してくれました。災害時に連携すべき組織が、日常における組織間での派閥争いの影響を受けてしまうなど、災害発生時の活動として本質的ではないところで問題が発生する可能性があります。これを回避するために、災害時の協定を事前に結んでおくことなどの事前策を中心とした議論でした。

「お金・持続可能性」のテーマでは、災害時の資金運営のワーキンググループを立ち上げたことを発表してくれました。教育や予防に対する予算が付きづらい、年度決済という構造のため継続的な企業の支援が得られづらい、人手が不足しがちなどの課題があります。これらを解決するため、下支えとなるITの技術をきちんと理解してもらい、予算が付いた活動となるための土台作りを支援するというコミットメントをしてくれました。

「防災教育」をテーマにした成果発表では、地域ごとの特性に配慮した教育の必要性を説きました。どうすれば主体的に防災について市民が考えられるようになるかという視点から、浦安市で防災教育コンテンツを作った「すごい防災訓練DECO」の事例を紹介。地域の道という道を歩き、その地域特性を深く理解したうえで災害をシミュレーションすることが大切で、現場の暗黙知をいかに言語化していくか、地域の人々とのつながりをどう作るかを、活動の理解と共に各地に拡げていく必要性を訴えました。

「コミュニティ運営」の成果発表では、誰かがいつも必ず居て「集まる・共有する・共感する」ことができる場の用意や、行政任せではなく自分達自身で災害に備えるためにコミュニティを作り上げていく必要を訴えました。そうしたコミュニティの質を高めるためには構成員の理解、また緩いつながりの構築をしていくことの重要性を挙げています。今後の取り組みとして、コミュニティをサポートしていく中で、数%でも芽が出ればその後の活動につながるというポジティブな意識付けと、活動の失敗を記録することで持続性のある活動とし、最後は長いお付き合いを目指すということで締めくくられました。

「産業復興」をテーマにした議論では、被災地における産業復興に主眼を置きましたが、その根底には地方の産業復興という大きな課題を含み、2つに分けて発表されました。1つが既存産業の復興をプロボノ注2の協力を得ながら実現していく案。もう1つがシリコンバレーのような新しい企業が生まれやすい文化を作っていくために、大学と連携して新規産業の育成をしていくスキーム作りの案を提案してくれました。

「人材育成」ではITに関する教育で、我々Hack For Japanの活動やこの連載でも何度か紹介しているイトナブ石巻の活動なども事例として議論されました。その中から、小さくても良いからアウトプットを出すことや、達成するべき目標を可視化することの大切さ、メンターを用意することの重要性を訴えました。

「ツール」のセッションでは情報の集積、その分析、そして可視化を軸に話し合われ、他の発表でも挙げられたデータの標準化や緊急時のデータの取り扱い、システム間連携や可視化を行うためのツールを事前に準備していくための議論が行われました。出てきたアイデアとしては、被災者の状況にあわせ、状況判断のための材料をレコメンデーションしていくしくみ、平時の情報蓄積と災害時の差分を見るしくみ、などが発表されました。

以前から活動されている「IT DART」の発表は、これまでの取り組みの振り返りと今後のアクションプランの策定をテーマにした議論でした。情報を軸にした議論から情報の整理や構造化をするためのテンプレート作りのみならず、そのUIとUXまで踏み込んだものにしなければ本来の目的を実現できないという課題意識から、最終的なアクションプランとしては、情報の整理に向けての活動や支援を行っていくという包括的なものが発表されました。

第2回会議を終えて

今年で2回目となる「ITx災害」会議でしたが、東日本大震災をきっかけに始まった各団体の活動も3年以上経った今、そのほかの災害も視野に入れた幅広いものとなりつつあります。参加者の多くが共通した課題を感じていることを知ることができ、良い機会にもなりました(写真3)。読者の皆さんにとって、この記事が減災、防災という観点から事前にできることを平時に考えてみるきっかけとなれば幸いです。

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◆◆写真3 会議を終えての記念撮影

脚注

注1)2014年2月に行われた世界銀行主催の防災、減災ハッカソン。本連載の9月号でもレポートしています。

注2)各分野の専門家が職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動全般。また、それに参加する専門家自身。(Wikipediaより)

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Updated on 2 24, 2013 by Seigo Ishino