Software Design 連載 第29回 街をハックする「Hack For Town in Aizu」開催!

この記事は、技術評論社 Software Design 2014年5月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第29回
街をハックする「Hack For Town in Aizu」開催!

Hack For Japanスタッフ

佐々木 陽 SASAKI Akira
Twitter @gclue_akira
佐伯 幸治 SAEKI Koji
Twitter @widesilverz

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回は街をハックするという新しい試みのHack For Townというイベントについて紹介します。

先端テクノロジを街で活かすためのハッカソン

2月15日、16日にHack For Japan主催による「Hack For Town in Aizu」が開催されました。Hack For Townとは、最先端テクノロジを用いて街中に設置された最先端ハードウェアをハックするという主旨のイベントで、将来的には最先端テクノロジを用いて新しい街を創造することを目指しています。
その第1回目の場所が福島県会津若松市となり、Hack For Town in Aizuとして開催されました。会津若松市には、会津若松駅からクルマで5分ほどのところに神明通りという商店街があります。今回はこの神明通りの各所にBeaconデバイスを設置注1し、商店街という環境ならではのロケーションを活かしたHackathonに、参加者たちがチャレンジしました(写真1、写真2)。

写真1 神明通りとポールに設置されたBeacon

写真1 神明通りとポールに設置されたBeacon

写真1 神明通りとポールに設置されたBeacon

 

写真2 今回使用したDIYのBeacon。ポールに引っ掛けるためのフックが付いている

今回使用したDIYのBeacon。ポールに引っ掛けるためのフックが付いている

またBeaconデバイス以外にも、スマートフォンやタブレットで操縦可能な4翼ヘリコプターのガジェットAR.Drone 2.0、パーソナル向けで小型・軽量タイプの3Dプリンタ、バーチャルな空間をよりリアルに楽しめるヘッドマウントディスプレイのOculus Rift、名刺サイズの格安PCボードであるRaspberry Pi、人感センサ・照度センサ・音センサ・温度センサ・湿度センサ・気圧センサを搭載した環境センサといったハードウェアを用意しました(写真3)。それらに加え、市内企業が保有しているfabスペース、APIとしては会津若松市に関するオープンデータなどが案内され、さまざまなハードウェアやデータを組み合わせた開発ができるような環境が用意されていました。
こういったHack For Town in Aizuの事前の情報はwikiを使ってまとめられ注2、参加者はこちらで概要をつかみ、どんなことができるかを前もって検討しておくことができるようになっていました(図1)。

写真3 環境センサ(上)、Raspberry Pi(中)、AR.Drone 2.0(下)といったデバイスも用意

環境センサ

Raspberry Pi

AR.Drone 2.0

図1 Hack For TownのwikiにあるBeaconのページ。さまざまな情報を集約

Hack For TownのwikiにあるBeaconのページ。さまざまな情報を集約

大雪の影響から開始を遅らせてのスタート

Hackathon当日。この日は雪害となる大雪で交通機関に影響が出ており、Hackathonの運営にも大きな支障をきたしました。そこで1日目の午前中に予定していた開始時間を遅らせてスタート。午前中は参加者の来場状況を見ながらHackathonを進めていくことを決定し、予定されていた参加者からのアイデアピッチを午後からとして、Hack For Japanスタッフであり、今回のイベントの提案者でもある佐々木陽からBLE(Bluetooth Low Energy)やiBeacon注3についてのレクチャーがなされました。
次に、Hack For Japanスタッフの及川卓也からHack For Townの説明注4があり、合わせてオープンデータを用意していることも伝えられました。具体的に案内されたオープンデータは、「会津若松市内のバス停データ」、「会津のバス運行情報(時刻表)」、「会津若松市内の消防水利位置情報」、「会津若松市の公共施設マップデータ」、「毎月大字別人口」、「月別1歳毎年齢別人口」、「開発プロバイダ向けクラウドサービス」といったものです。オープンデータについては「現状、必ずしも必要なデータがそろっているわけではありません。もし『こんなデータが公開されていたらこんなことができるのに』というアイデアがあれば、データが公開されているという前提で開発をしてください。日本全国すべての自治体がデータをオープンにすることに対して積極的に取り組んでいるわけではありません。なかには、データが公開されていたらどんなことができるかというイメージを持てないために、オープンデータに取り組んでいないというケースも考えられます。Hackathonでは『住民の方に使ってもらえる便利なサービスを作るためにこういったデータの公開が必要』といったアプローチも大歓迎です。データがないからといってあきらめないでチャレンジしてください」とその重要性にも触れていました。
最後にフリービット社の渡邉知男氏から環境センサについての説明注5がなされました。この環境センサは佐賀県唐津市と同社による「高齢者向け安心見守り・健康相談システム」の実証実験に使用されているものでもあるそうです。
午後から本格的にHackathonに入りました。参加者各々が考えているアイデアを披露し、興味を持ったアイデアに参加するといった形でチーム分けを行った後、開発が始まりました(この日のアイデアピッチについてはYouTube注6にてご覧いただけます)。2日目の午前中も前日から引き続いてのHackathonを行い、夕方に成果発表となりました。

■数々の街ハックのアイデアが生まれる

今回のHackathonでは以下のような成果が発表されました注7

サックマンのパックマン
街中に設置したBeaconをエサに見立てたAR版パックマン。ゲームとしても、スタンプラリーとしても活用できることを目指したもの。
Anko-Kivy
KivyというPythonで記述するNUI(Natural User Interface)でフレームワークを作成。BLE、Beaconをマルチプラットフォームで使えるようにする。
BoarDrone
利用者の持っているAndroidでBeaconの信号を受信すると、その場所にDroneが飛んできて案内をするというもの。
iMenu
最寄りのBeaconを検知してユーザがいる店舗の情報を取得し、メニューを表示するシステム。
障害者のための障害物検知アプリ
目の不自由な方に対して、たとえば滑りやすい道や工事中で通れない道、段差のある道があった際に音声で通知してくれるアプリ。
消えたプリンセスを探せ!
神明通りの各所に設置されたBeaconから情報を得て、神明通りに逃げ込んだキャラクターを探すアドベンチャーゲーム。
一緒に歩こう
Beaconの設置してある場所に行くと女性の音声が流れる。設定された速度で歩かないと声が遠ざかる。二次元キャラとリアルに歩く感覚を追求したアプリ。
会津クライシス
Googleストリートビューの神明通りを取り込んだDroneを使ったシューティングゲーム。向かってくるゾンビを打ち倒す。
トロッコ列車
神明通りをトロッコが走る3DゲームをUnityを使って目指した。
動物レストラン
親子連れをターゲットに商店街に行くきっかけを作るためのアプリ。商店街に設置したBeaconを果物のエサと見立てて、その果物を動物に見立てたiPhoneが食べるというもの。
ぴかり
Beaconのハード制御によって通信でLEDを光らせる。特定のiPhoneが近づいたときにBeaconが光るほかに、音声を流してしゃべっているように見せることもできる。

発表では室井照平 会津若松市長、会津大学 次期理事長兼学長 岡嶐一氏といった方に審査委員として参加いただき、各発表に対して評価がなされ、市長賞「BoarDrone」、Hack For Japan賞「障害者のための障害物検知アプリ」、会津ゲームLAB賞「消えたプリンセスを探せ!」という結果となりました。

ITの実証実験ができる場づくりを

今回、街をハックするというはじめての試みで開催されたHack For Town in Aizuでしたが、数多くの方々からのご協力の下、運営がなされました。市役所の方々が運営のサポートに入ったこともお伝えしておきます。開催場所も市役所の会議室や会津若松市生涯学習総合センターを提供いただきました(写真4)。
会津若松市では、たとえば年齢別人口や町・大字別人口といった統計データ、消火栓位置情報や公共施設マップの公開などを実施することで、オープンデータの普及・啓発活動を積極的に行っており注8、今回ようなITイベントについても理解・協力が得やすい環境が整っていると実感しました。
「日本には実際のフィールドでセンシング、IT機器、クラウド連携を試せる場所がない。アメリカのサウスバイサウスウエストのようなイベントが日本であってもいいんじゃないか。『会津若松に来れば2日間だけは街中を自由にハックできます』といったITの実証実験ができるような、そういったしくみをつくるためにHack For Townを開催することにしました。地方も東京も同じですが、商店街に人が来ませんとか、お年寄りが増えていますとか、そういった根本の問題を解決するきっかけにもHack For Townはなるんじゃないか」
スタッフ佐々木のそんな想いからはじまったHack For Town。実行委員会も立ち上げる予定ですので、またイベントが開催されることと思います。次回のHack For Townで皆様にお会いできるのを楽しみにしています。

写真4 会津若松市役所に貼られた案内

会津若松市役所に貼られた案内

<コラム> iBeaconについて

iBeaconとは、AppleがiOS 7から搭載したBlue
tooth Low EnergyベースのMicro Locationのしくみです。iBeaconはCoreLocation APIを参照しますのでロケーション用のしくみになっています。
Bluetooth Low EnergyはBluetooth 4.0からLow Energyという新しい規格が取り入れられたもので、それまでのBluetoothにおいて懸念されていた電力消費の大きかった点が見直され、たとえばスマートフォンの電力消費改善にもつながっています。最近ではBluetooth Low Energyに対応したハードウェアが出てきており、今後のトレンドになるとも言われていますが、そのしくみの1つがiBeaconとなります。
iBeaconにはUUIDを設定します。iOS上でiBeaconのUUIDがマッチした場合、minor ID(2バイト $0000〜$ffff=0-65535)、major ID(2バイト $0000〜$ffff=0-65535)、rssi(受信信号 dBm)、proximity(Beaconとの距離/Immediate、Near、Far、Unknownで定義)がアプリで取得できます。
イベントとしてはiBeaconを見失ったときに呼び出されるdidExitRegion、iBeaconを発見したときに呼び出されるdidEnterRegion、常時まわりにあるiBeaconをスキャンするdidRangeBeaconsがあり、アプリがバックグラウンドにあろうと、フォアグランドにあろうとイベントを取れます。
このしくみを使って何ができるかというと、たとえば、お店に入った時点でポケットに入れておいたiPhoneがiBeaconを発見して、何かしらのイベントが発生するといった使い方ができます。サーバに接続するロジックを入れておくとログも取れますので、オフィスにiBeaconを設置しておいて、iBeaconを認識したら出勤・見失ったら退勤といったような出勤表を作ることもできます。アメリカのアップルストアではiBeaconとアップルストアのアプリを使って、アップルストアに入ると場所ごとにiPhoneの画面にさまざまな情報が案内されるサービスも提供されています。

脚注

注1) https://mapsengine.google.com/map/edit?mid=z-JddsFmwUAw.k9yiocwcHkOk
注2) http://www.hack4town.org/wiki/index.php?Hack%20for%20Town
注3) iBeaconは、Apple Inc.の登録商標です。コラム参照。
注4) http://www.slideshare.net/skkj2014/hack-fortowninaizu
注5) http://www.slideshare.net/tomowatanabe/hack4-town
注6) http://www.youtube.com/playlist?list=PLjaU4dlb6AW5Arc9NyqBODNTCBs0upWkQ
注7) 成果発表や表彰式は動画で見られます。http://www.youtube.com/playlist?list=PLjaU4dlb6AW5Arc9NyqBODNTCBs0upWkQ
注8) 会津若松市 オープンデータの取り組み。http://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2009122400048/

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