Software Design 連載 第34回 エフサミ2014レポート

この記事は、技術評論社 Software Design 2XXX年00月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回は福島県で行われたITイベント「エフサミ」の報告です。

第34回 エフサミ2014レポート

Hack For Japanスタッフ
及川 卓也 Takuya Oikawa
Twitter @takoratta
鎌田 篤慎 KAMATA Shigenori
Twitter @4niruddha

福島のITコミュニティが一丸となって開催

今回は本連載第14回(2013年2月号)でも紹介させていただいた「ITスキルアップコミュニティ エフスタ!!注1」が、2014年7月12日から13日にかけて開催した福島県内最大のITイベント「エフサミ注2」のレポートをお送りします。エフスタ!!は原発問題を抱える福島県は郡山から、ITによって福島県を盛り上げ、県外の人達にも楽しんでもらいつつ福島の今を知ってもらうための活動を精力的に続けています。

福島県は明治9年に3つの県が統合されてできた大きな県で、浜通り、中通り、会津といった3つの縦断された地域で成り立っています。そうした背景もあり、3つの地域に存在するITコミュニティも震災以前はそれほど連携はありませんでした。それが震災を契機に徐々につながりはじめ、連載第31回(2014年7月号)で紹介した震災後3年を振り返ったイベントのとおり、会津、中通り、浜通りの開発者達がつながり、協力し合い、今回の「エフサミ」の開催となりました。

イベントの様子

エフサミは土曜日と日曜日の2日間に分けて、いくつかのトラック構成でさまざまなセッションが催されました(写真1)。

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写真1

Hack For Japanスタッフでもある及川卓也による基調講演でスタートした初日は、5つのトラック+子供向けのワークショップトラックで構成されました。

「Fukushima」トラックはこれからのITを知ってもらうことをテーマとし、後述の「Fab蔵注3」の紹介や、Kinect2に代表されるモーションセンサーの活用、福島県でのセンサー活用の紹介がメインとなるセッション構成でした。

「Koriyama」はITの面白さを知り、強い興味を持ってもらうためのトラックで、セキュリティの裏側を詳しく解説するものから、Webや感情のデザイン、ゲームを遊ぶ側から作る側へといった中身の濃い話が中心でした。

「Aizu」トラックは福島県の地元企業や学生、コミュニティメンバーによる発表が中心で、福島からIT活動を発信することのおもしろさ、やりがいを伝えてくれました。

「Iwaki」トラックの目玉である自由参加なライトニングトークでは、エフスタメンバーのほかにも精力的に活動している熱い人達の話が聞け、「Kura」トラックではAWSやAzureといったプラットフォームのエヴァンジェリストが実際に手取り足取り教えてくれるハンズオンスタイルで、来場者が最新のクラウド環境での開発を学べました。

2日目はYahoo!やGoogle、Microsoftといった企業による講演や「福島のITで日本を元気に!」をテーマにしたアイデアソン、また、GoogleやMicrosoftによるハンズオンのワークショップが中心となりました。

両日共に開催された「Mirai」トラックでは、未来の希望である子供達にITの面白さを知ってもらうために、デジタル絵本のワークショップや描いた絵をゲームに登場させたり、モーションセンサーを使った遊びを行うセッションがあり、子供達にも大好評でした(写真2)。そうした盛況な様子が話題となり、テレビ局からの取材も入りました。子供達の様子や各セッションの様子などとあわせ、代表の大久保仁さんへのインタビューなどが収録され、イベント開催中に放送されました。

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写真2b

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また、今回のイベントでは会場でコーヒーが振る舞われたり(写真3)、似顔絵コーナーを設ける(写真4)など、幅広い層の参加者が楽しめる空間作りがされていました。ほかにも登壇者の気さくな一面を知ってもらおうという企画のラジオ番組風対談も実施され、オンラインで生放送されるなど、勉強会を中心としたITコミュニティのイベントの中でも、これほどまで細部にわたり企画され、盛りだくさんで楽しめるイベントはなかなかないと思います。

写真3

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写真4

写真4

セッションの紹介

行われたセッションの主なものを紹介します。

基調講演「ITから福島、東北、日本の未来を考える」

基調講演ではHack For Japanスタッフの及川がインターネットの誕生から今までを振り返りました。TCP/IPのデザインの根幹にあるSlow Startを紹介し、私たち一般の考え方にも“Think Big, Start Small, Scale Fast”という考えを適用しようと呼びかけました。

インターネットの世界で働くことについて

2日目の大手インターネット企業が講演する「Fukushima」トラックでは、Hack For Japanスタッフでもあり、普段はYahoo! JAPANに勤務している鎌田篤慎から、インターネットの世界で働くことについての話を中心に、Yahoo! JAPANの紹介もしました。
今回のエフサミではITを学ぶ学生の参加者が多かったことから、学生達にIT業界で働くことに興味を持ってもらうように心がけ、鎌田自身のインターネット企業に転職するまでの経緯から、未知の領域に挑むインターネット企業の仕事内容をさまざまな角度から比較をしてみました。そして世界のトレンドを紹介し、未来を担う学生にIT業界で働くことの意味と、さらなる可能性を秘めた仕事であることを繰り返し伝えました。

福島や復興に関係するもの

エフサミは、福島のコミュニティによって福島で開催されたイベントということもあり、福島や復興に関連するセッションがいくつか行われました。

●Fab蔵のすべて
Hack For JapanスタッフでもあるGClueの佐々木陽さんは現在、会津若松市に「Fab蔵」というInternet of Things(IoT)の時代に向けたモノづくりを支援する施設を立ち上げています。このセッションでは、IoTの現状と今後の説明やFab蔵の紹介が行われました。
会津若松ということもあり、Fab蔵は使われなくなった本物の蔵を再利用しており、紹介された写真で見るだけですが、非常に雰囲気があります。このようなユニークな施設にレーザーカッターや3Dプリンタなど必要な機器が常設されており、すぐにアイデアを試してみることができます。
Fab蔵では定期的なワークショップを行い、コミュニティとしての知識の底上げを図るとともに、ハッカソンや長めのハッカソン(Longハッカソンと名づけています)、ハードウェアを中心としたイベントであるガジェットソンなどを企画しています。市外からの参加も歓迎のようですので、興味のある人はぜひとも参加を検討してみてください。

●福島のITで日本を元気に! in 浜通り
Aizuトラックでは、浜通り、中通り、会津の3地域から発表がありました。
まず、浜通りからは、いわき情報技術研究会注4理事長の高山文雄さんと南相馬ITコンソーシアム監事である南相馬市議の但野謙介さんからお話がありました。ご存じのとおり、原発事故の影響もあり、厳しい状況にある浜通りです。たとえば、いわき明星大学では科学技術学部の募集を停止し、今後は2学部体制(薬学部と教養学部)となるなど、事態は深刻です。
いわき情報技術研究会は震災発生直後の2011年5月に発足し、月1回の研究会を開催しています。また、南相馬ITコンソーシアムも地域の産業復興を担う人材の育成を目指して発足しました。実績として、南相馬発のアプリをすでにいくつもリリースしています。
いずれも復旧から復興に至る中で、人口減少など地方の課題に取り組む手段としてのITに活路を見出しています。

●福島のITで日本を元気に! in 中通り
Aizuトラックの2つ目はエフスタ!!SENDAIの八巻雄哉さんの司会で、(株)エフコムの斉藤広二さん、林容崇さん、(株)福島情報処理センターの大和田洋介さん、(株)会津ラボの稲澤麻弓さん、(株)ネクストの藤原裕也氏さん、Studioisaacの清水俊之介さんという地方と首都圏のエンジニアがそれぞれの立場でのエンジニアライフを語る、ちょっと変わったセッションでした。
地方と都市部という違いだけでなく、企業とフリーランスなどの異なる立場による考えの違いもあり、会場含めて有意義な議論がされました。多くの学生も参加していましたが、何をやりたいのかビジョンを明確にすべきという登壇者からのメッセージは彼らにも響いたのではないでしょうか。

●福島のITで日本を元気に! in 会津
CODE for AIZU注5は会津地域のIT企業・団体・行政の有志や学生などが中心となり、地域の抱えるさまざまな課題を解決する方法を考え、アプリケーションやWebサービスとして開発・提供する草の根的なコミュニティです。このセッションでは、CODE for AIZUで活躍する3名が登壇しました。
藤井靖史さんからは自らの持つスキルを使って地域に貢献できるCODE for AIZUについての説明がありました。活動内容として、市役所やベンチャー企業との連携、Code for Japan注6や他のCode for Xとの地域連携などの紹介がされました。
前田諭志さんからはオープンデータによる地域エコシステム構築が紹介されました。オープンデータとして提供されるデータはData for Citizen注7で整備されているそうです。
徳納弘和さんからは実際にオープンデータを使ったデモがを紹介されました。開発の際に、課題発見、要求把握、オープンデータとしてのデータの存在を検討することが重要と話されていました。

●ITで地方を元気に! コミュニティリーダートーク!
「ITで地方を元気に!」は東北と北海道のコミュニティリーダーによるトークセッションです。登壇したのは、北海道を中心に活動するLOCAL注8の八巻正行さん、仙台を中心に活動する東北デベロッパーズコミュニティ(TDC)注9の小泉勝志郎さん、この連載でも何度か取り上げたことのあるイトナブ石巻注10の古山隆幸さん、そしてエフスタ代表の大久保仁さんとエフスタ東京の代表である影山哲也さんです。ファシリテータであるエフスタの浅井渉さんからの質問に登壇者が答える形でセッションは進みました。笑いを交えて、各コミュニティリーダーの思いが伝わる大変熱いセッションでした。

●アイデアソン
2日目には、会場外でアイデアソンも開催されました。最初は小雨がぱらつくあいにくの空模様だったのですが、午後からは雨も小降りになり、屋外ということもあって、和気あいあいとした雰囲気で開催されました。

参加者は4〜6人のチームに分かれ、スマートフォンアプリケーションを考えました。前半でアイデアを議論し、後半はペーパープロトタイプを行います(写真5)。最初は知らない人同士であっても、議論をしているうちに立派なチームメートになっていく。そんなことを体験できるアイデアソンでした。次回はこのアイデアソンの名前である「青空ソン」のとおり、青空の下で行ってみたいと、そんなことを思わせる一日となりました。

写真5

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まとめ

以上、エフスタが行ったエフサミ2014の2日間の模様をお伝えしました。Hack For Japanスタッフがコンタクトをした際には、まだ小規模で、あくまでも中通りの勉強会コミュニティであったエフスタが、福島の3地域のみならず東京をはじめとする関東のエンジニアや東北地方のエンジニアを巻き込むまでの規模になったのも、エフスタスタッフをはじめとする関係者の努力の賜物でしょう(写真6)。

写真6

写真6

とくに、今回のエフサミは学生が多く参加していたり、子供が楽しめる仕掛けがされているなど、首都圏のイベントでも参考にすべき点が多くあったように思います。Hack For Japanとして、これからも継続して応援をしていきたいと考えています。
エフスタスタッフの方々、お疲れ様でした。

脚注

注1)http://www.efsta.com/

注2)http://summit.efsta.com/2014/

注3)http://www.fabkura.org/

注4)https://sites.google.com/site/iwakiit/home

注5)http://aizu.io/

注6)http://code4japan.org/

注7)http://www.data4citizen.jp/

注8)http://www.local.or.jp/

注9)http://tohoku-dev.jp/

注10)http://itnav.jp/

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Updated on 2 24, 2013 by Seigo Ishino