Software Design 連載 第43回 国連防災世界会議と情報支援レスキュー隊

 

この記事は、技術評論社 Software Design 2015年7月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第43回

国連防災世界会議と情報支援レスキュー隊

Hack For Japanスタッフ
及川 卓也 OIKAWA takuya
Twitter @ takoratta

2015年3月に、第3回 国連防災世界会議が宮城県仙台市で開催されました。今回はこのときの様子と、その世界会議のパブリックフォーラムで情報支援レスキュー隊が開催したワークショップの模様をお伝えします。


東日本大震災から4年目を迎える3月に、宮城県仙台市において第3回 国連防災世界会議が開催されました。これは国際的な防災戦略について議論する国際連合主催の会議であり、10年に1回の頻度で開催されています。過去2回とも日本で開催されており、1994年の第1回目は横浜で、2005年の第2回目は神戸で開催されました。

今回はこの第3回 国連防災世界会議の様子と、そのパブリックフォーラムにて筆者もスタッフの1人としてかかわっている情報支援レスキュー隊(英語名 IT DART:Information Technology Disaster And Response Team)が開催したワークショップの模様をお伝えします。

第3回 国連防災世界会議

第3回 国連防災世界会議は3月14日から3月18日にかけて、仙台市内の数ヵ所の会場で行われました。本会議には187ヵ国の代表者、および国連機関、ドナーやNGOなど、計6,500人以上が参加し、後述するパブリックフォーラムにはなんと15万人以上が参加という大変大規模なイベントとなりました。この期間中、市内のさまざまな場所で防災に関する催しものが開かれ、また世界各地の文化や食に親しむような機会も設けられました。

初日の3月14日には安倍晋三首相が「仙台防災協力イニシアティブ」を発表しました。これは防災先進国・日本として世界に向けての貢献姿勢を示すもので、2015〜2018年の4年間に防災関連分野で計40億ドルの協力と4万人の人材育成を実施することが施策として示されています。

また、会議最終日の3月18日には本会議の最終成果として、「仙台宣言」および「仙台防災枠組2015-2030(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015-2030)」が採択されています。原文や要約は外務省のサイトから見ることができます。正直、国連機関による声明なので、一般人には抽象的でわかりにくいところはありますが、災害リスクの理解や管理などでITによる貢献が期待されていることがわかります。

パブリックフォーラム

国連加盟国の政府関係者やNGOなどが主な参加者である本会議以外に、同時に開催されたのがパブリックフォーラムです。こちらは誰もが参加できるもので、東日本大震災総合フォーラムという「東日本大震災の経験と教訓を世界へ」をテーマとしたシンポジウムやその他さまざまなサイドイベント、また屋内や屋外での展示などが行われました。東日本大震災総合フォーラムとサイドイベントだけでも400を超える数のイベントが開催され、先ほども紹介したように全体で15万人を超す人たちが参加しました。

イベントはすでに終了していますが、パブフォ仙台というパブリックフォーラム検索サイトで、どのようなイベントが開催されていたかを見ることができます。また、事務局である国連国際防災戦略事務局(UNISDR)にてパブリックフォーラムの各セッションなどのレポートが今後公開される予定となっています。

情報支援レスキュー隊

このパブリックフォーラムでワークショップを開催したのが情報支援レスキュー隊です。

情報支援レスキュー隊はこの連載でもお伝えしたことのある、ITを用いて復興支援や防災・減災を考えるコミュニティである「IT×災害」の中から生まれた活動です。まだ、その具体的な活動内容については議論を重ねている段階ですが、災害急性期での情報支援を行う専門チームを目指しています(図1)。災害時の復旧活動には情報の収集・活用・発信のしくみを迅速に起ち上げる必要があり、この情報支援レスキュー隊は、IT技術を活かして、このしくみ作りを支援しようと取り組んでいます。今までに、本格稼働に向けたシミュレーション訓練および人材育成プログラムの開発を行いました。

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図1 情報支援レスキュー隊の狙い

荒川氾濫と新潟県中越沖地震のシミュレーション

たとえば、昨年の秋には仙台にて2つの災害を例に、机上訓練を行いました。1つは国土交通省関東地方整備局 荒川下流河川事務所が作成したフィクションドキュメンタリーである「荒川氾濫」を元に、2014年9月1日に荒川が氾濫したという設定でのIT支援を考えました。

この「荒川氾濫」はYouTubeに迫真に迫るドキュメンタリービデオが公開されています(図2)。これをベースに足りない情報は過去の類似災害や各自治体のハザードマップや公開されている地理情報を使い、架空の災害を作り上げました。

図2 国土交通省 荒川下流河川事務所制作のフィクションドキュメンタリー「荒川氾濫」

図2 国土交通省 荒川下流河川事務所制作のフィクションドキュメンタリー「荒川氾濫」

もう1つは新潟県中越沖地震が2014年に発生したという設定で、同じくITでの支援を考えました。机上訓練そのものも大変意義のあるものでしたが、それに加えて、災害が起きたときにどのような経緯で被害が拡大し、支援が入るかを時系列に検証できたのも良い経験となりました。たとえば、皆さんは自分の市町村の避難場所や避難所がどこにあるかご存じですか? また、ハザードマップを見たことがありますか? 机上訓練までは難しいとしても、自分の住んでいる自治体のWebサイトからこれらの情報を探しだして、見ておくだけでも多くの気付きがあることでしょう。

どちらのケースにおいても、筆者たちはタイムラインを作成しました。通常、災害時におけるタイムラインとは発生が予想される災害、たとえば台風接近に伴う水害などの場合に、災害発生までの数日間のうちに行うべき防災行動をあらかじめ規定しておくことを言います。台風上陸の12時間前までに住民に緊急避難を呼びかけるなどの行動を規定しておき、実際の災害時に決められたとおりに行動することで、被害を最小限に抑え、発災後の復旧・復興作業を迅速に進めます。

今回のシミュレーションで筆者たちが作成したタイムラインはそのようなものではなく、“発災後”におもに焦点を当てたものでした。発災後にどのような被害が起きるかを災害のシミュレーションのために時系列で作成し、いつどのような支援を行うかを計画していきました(図3)。

図3 シミュレーションで作成したタイムライン

図3 シミュレーションで作成したタイムライン

この机上訓練に続いて、昨年末には石巻と東京を結んで実際に半日かけてのIT支援の検証も行いました。2014年12月20日(土)10:13に宮城県石巻沖でM6.8の地震発生、石巻市で最大震度6強という設定で、被災地外から被災地入りした派遣チームが石巻に本部拠点を設置し、地元ボランティアの協力を得ながら東京の後方支援チームと連携を図り、被災地の情報収集、整理、発信を行いました。

この石巻の検証については、情報支援レスキュー隊のスタッフとして筆者と当初から参加している斎藤昌義氏がまとめた「IT DART ITに関わる私たちが災害に備え『何をすべきか/何ができるか』」を参照してください。

ワークショップ

話を国連防災世界会議に戻しましょう。パブリックフォーラムでは、情報支援レスキュー隊としてワークショップを開催しました。ワークショップでは今までの取り組みを紹介しつつ、活動案について議論し、具体的な活動に発展させることをゴールとしました。また、当日より正式に隊員募集も開始しました。

前半に行った今までの活動紹介としては、石巻での検証に加えて、「災害IT支援ネットワーク」の取り組みも紹介されました。災害IT支援ネットワークは代表の柴田哲史氏が従来より行っていた、災害ボランティアセンターへのIT支援を組織化したものです。発災後に災害ボランティアによるボランティア活動をコーディネートするために、社会福祉協議会などが中心となって設立されるのが災害ボランティアセンターですが、被災地側の状況などを発信するために最近ではWebサイトやFacebookなどのソーシャルメディアの活用が欠かせません。柴田氏の活動は迅速にWebサイトを構築し、Facebookなどで発信するとともに、ITを中心とした広報チームとしても機能するものです。

情報支援レスキュー隊の活動そのものではありませんが、同じく発災後に被災地入りすることと、情報支援レスキュー隊の考える情報の流れにおいて、情報支援レスキュー隊が収集したものの活用と発信先などでも連携の可能性が高いため、常に情報交換をしています。今回も災害IT支援ネットワークの立場でありながら、広い視野で必要となるIT支援について一緒に考えていただきました。

前半の活動紹介の後はスタッフ含めて総勢55名の参加者を次のテーマごとに6つに分けて、グループディスカッションを行いました。

・被災地における情報支援のあり方とは?
・被災地を支援する人たちに対する情報支援のあり方とは?
・被災地入りしないでできる情報支援のあり方とは?
・技術者ができる情報支援とは何か?
・急性期の情報支援のあり方とは?
・海外の状況

最後の海外の状況の議論は途中、中国からの参加者が入ったため、急遽用意したものです。国連防災世界会議のパブリックフォーラムということもあり、実は英語での対応もできるように用意していたのですが、蓋を開けてみるとやはり参加者は全員日本人という状況でした。そのため、当初は日本語だけで議論を進めていたのですが、途中からとはいえ、海外からの参加者に入っていただけたのは非常に嬉しいことでした。海外という点では、フィリピンのテレビ局も取材に来ていたようです(写真1)。

写真1 参加者での記念撮影

写真1 参加者での記念撮影

このワークショップについても、前述の斎藤氏がブログにまとめられています。ぜひ、そちらもご覧ください。

平時からできる災害訓練

国連防災世界会議の話題に直接関係するものではありませんが、筆者がこの情報支援レスキュー隊にかかわっていて、行うようになったのが、平時から発災時の状況を想像し、その状況で何ができるかを検討することです。

たとえば、発災時に携帯網が不安定になることが予想されます。その場合、技術で解決できることは、携帯網以外を用いて情報共有を行う方法を模索することと、その不安定になったインフラの上でできることを考えることです。前者については、香港のデモでも用いられたというFireChatのようなメッシュネットワークを使った通信や、将来的には気球を用いたインターネット接続なども考えられるでしょう。後者については帯域を絞ったなかで何が利用できるかを事前に調べてみるなどが有効です。

石巻での検証においても、事前に練られたシナリオで、3Gに帯域幅を制限したなかで情報の送受信をするようなことや、音声しか利用できない時間帯を設けるなどの制約が加えられていました。3Gもしくは2Gのような環境では普段使っているようなサービスをそのまま使うことはできません。写真情報が有効とわかっていても、今のスマートフォンの既定の設定では解像度が高すぎて、送受信に何分もかかってしまいます。東京にいると想定した後方支援部隊と石巻の現地本部との間もハングアウトが発災直後は使えていたものの、その後はその使用は認められなくなりました。ネットがほぼ普段どおり使える後方支援本部ではGoogleマップやその他のクラウドサービスを活用できましたが、その情報をどうやって現地に伝えるかが課題となりました。

このようなことは平時から調査し、事前にその対応を考えられるものです。いざ事が起きてからではなく、事前に状況に応じて使えるものを使う。そのような準備こそが災害に強い社会を作るために大事なことでしょう。

今後に向けて

情報支援レスキュー隊は国連防災世界会議パブリックフォーラムでのワークショップを経て、おもにワークショップの参加者を中心に情報共有や議論を続けています。そのために、Facebook上に「IT DARTの活動を考える」という名前のグループが用意されていますので、興味のある方はぜひご参加ください。また、暫定的ではありますが、隊員募集も継続しておりますので、こちらも検討ください。隊員への応募は「隊員募集」ページから行えます。

また、自治体との連携などを進めるために法人化も視野に入れ、組織構成についても検討しています。活動内容、実績、組織構成の3つを柱に現在、実稼働に向けての準備を進めているところです。近いうちに本誌上でも進捗をお知らせできるようにいたします。

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CC-BY-NC-ND

Updated on 2 24, 2013 by Seigo Ishino