Software Design 連載 第19回 Hack For Japanスタッフ座談会[後編]
Software Design 連載 第19回 Hack For Japanスタッフ座談会[後編]
この記事は、技術評論社 Software Design 2013年7月号の転載です。 記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。 |
Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
第18回Hack For Japanスタッフ座談会[後編]
ITで復興支援を考えるHack For Japanとして活動を続けていくにあたり、「これまでの振り返りと今後に向けた決意」をテーマにスタッフで座談会を開きました。今回はその後編です。
参加者紹介
(Hack For Japanスタッフ)
及川 卓也
Hack For Japan の立ち上げメンバーの1 人。普段はGoogleでChromeを担当しているほか、知り合いのスタートアップやNPOに助言を与えたりしている。今回はGoogle Hangoutで参加。
小泉 勝志郎
サンキュロットインフォ代表。スマートフォンアプリ開発関連の事業を行う。震災で失業者が多い南相馬でアプリ開発者育成をした。震災復興では「うらと海の子再生プロジェクト」にてIT 関連を担当。
岩切 晃子
(株)翔泳社勤務。毎年開催されているデブサミを運営。岩手県釜石市出身でHack For Japanの活動で岩手とのパイプ役として奮闘している。
鎌田 篤慎
普段はヤフー(株)が公開するAPIなどの利用促進、デベロッパリレーションなどを業務としている。Hack For Japan では復旧復興支援データベースAPIへの改善要望をまとめ、国に提言した。
佐々木 陽
会津若松の(株)GClueの代表取締役。Android、iOS アプリケーション開発が主な事業。未来の主戦力となるエンジニアを育てるため、大学生などに教える活動を10年間行っている。
佐伯 幸治
Hack For Japanではコピーライティングをおもに担当。普段はフリーランスとしてWebや紙媒体の編集制作・コピーライティングに携わっている。
関 治之
Georepublic Japan 社CEO。Geo Developerとして位置情報系のサービスを数多く立ち上げてきた。Hack For Japan では、復興マッピングやオープンデータハッカソンなどを実施している。
石野 正剛
震災直後に福島第一原発から放出される放射性物質と風向きを地図上に可視化するスマホアプリ「風@福島原発」を開発した。富士通(株)でソフトウェアのUXデザインを担当している。
高橋 憲一
普段は(株)スマートエデュケーションのエンジニアとしてiOSやAndroidの子供向け知育アプリ開発を行っている。最近は東北TECH道場の講師として宮城県の石巻を頻繁に訪れている。
福島の問題
佐々木:福島の問題は、あらためて一度集まって話しをして、いま誰が困っているかを見極める必要があります。自立して普通に生活している人は増えていて、とくに若い人はもうアパートを借りて住んでいたりします。残っているのはお年寄りの方ばかりです。会津にある私の会社の裏が避難住宅なので見るんですけれども、明かりがポツンとしかなくてほとんど人が来なくなってきています。
ITで何か、という観点では、福島で活動をされている方のサイトをいくつか見てみたのですが、リアルタイムの情報が載っていないのです。「こういう支援をしています」という情報はあっても、いつどこで誰がというものはなく、情報の更新が止まっている感じがします。
問題が複雑だということもあるのかもしれませんが、いま問題意識を持って動いている人がいるのかどうかよくわからない状況です。ですので、そういう人を福島で探してみるのもありかもしれませんね。エフスタさん注1とかはどうなんでしょう。
鎌田:エフスタさんはITのコミュニティを育てて、人が離れていっている現状を何とかしようという活動をされていますね。
佐々木:そろそろ何かやらないとマズいという雰囲気にはなっています。福島は広すぎるのでもともと分かれていたのですが、エリアとして分断され始めているので、ITを使ってできることは多いのかなと思います。ただ繰り返しになりますが、一度いろいろな人を集めて議論しないと、誰が何で困っているかわからないという状況ですね。
高橋:震災直後の4月末に会津でみんなで話し合うイベントを行いましたよね。ああいった場をもう一度持つのが良いでしょうか。
佐々木:そう思います。会津は風評被害はあっても直接の被害はないエリアですが、中通りと沿岸部にはここら辺でテコ入れするのが良いかなと思います。福島は最近イベントが少ないので、何か目的意識を持ってみんなで集まってやると良いのではないかと思います。
沿岸部の人以外は、確かにみんな元どおりの生活にはなってきているんです。震災前と後で生活が変わったかというと、やはり沿岸部の人以外はあまり変わっていないんです。沿岸部の人は生活が極端に変わって全然違う人生になっているのですが、本来サポートすべき人たちがあまりアクティブに動いていないという傾向があると思っています。そこを今年は1つのテーマにして、できることを積極的にやっていきたい、という感じがしています。いろいろな人がちょくちょく来てくれるのですが、事例としては南相馬が一番目的意識が高いかなと思うので、そこが参考になるかなと思います。
スキルマッチングとOpenData
高橋:メディアへのアピールなどは広くドライブかけてやっていくべきでしょうか。マッチングのしくみを知らせるという観点では、広く伝えるべきだとは思うのですが。
及川:やはり「何でもやれますよ」という感じで言うのは少し無理があると思っていて、どこまでできるかわからない状況で大風呂敷を広げるのは怖いというのもあります。一方、状況が変わっている中で、いろいろな地域でちょっと街に出れば日常があるところなのに、いつまでもボランティアに頼んでいいのかと被災者側が感じてしまう部分もあるのではないかと思います。
1つは“何かそのしくみを使ってできるもの”を地道に作っていくというのが良いのではないかと思います。たとえば、石野さんが進めている風@福島原発注2のサーバ側の開発の部分を手伝ってもらうとか、そういうのがいいんじゃないかと思います。
スタッフ側がやろうと思ってもいまはちょっとできなかったり、もしくは、この辺りを変えたいと思っていままで少数でやっていたものに対して、ほかの人に加わってもらうとか。たとえば風@福島原発の花粉版、PM2.5版を作るようなことはどうでしょう。
石野:実はすでに3部作ということでアプリは出してあって、花粉とPM2.5についても風@福島原発と同じやり方でできています。その話に関連して(ここに集まった皆さんと)共有したいことがあります。今年は花粉がもの凄かったですよね。そしてPM2.5も注目されてましたよね。花粉のほうは去年作ったのですがトラブルはありませんでした。ところが今年はサーバがダウンしました。原因はデータソースである環境省のサイトにあって、ブラウザで見るとタイムアウトしてしまうという状況だったのです。2日後にはサーバが増強されて改善はしたのですが、そのときに某ISPの方と「官公庁のデータの出し方やサーバのトラブル対応の仕方というのは何も変わっていない。こういうのは担当者を集めて話し合わないと駄目ですね」というような話をしました。
関:OpenDataの観点でのいい事例ですね。
アイデアはまだまだあるはず
及川:テーマを決めて意見を募ってみたほうが良いのではないかなと思います。先日、Hack For Japanにかかわっている経緯で東日本大震災アーカイブ注3で、関さんが技術面、私が利活用ワーキンググループのメンバーになっており、どう利用するか、どんなことができたらいいかというような議論をしました。
東日本大震災データアーカイブのようなものは、自治体の人たちが震災の記録を取っていったりアーカイブを用意するにはそれなりのコストがかかって大変なことだというのがあります。ただ、OpenDataというイニシアチブもあって進めたいというときに、一生懸命アーカイブとして作ったものがどう使われて、それが地元の人にとってどう役立つのかを考えてみる。
たとえば地元の経済や観光にどう利用できるのか。ざっと考えただけでも、以前セカイカメラでやっていたような、ARで震災前の写真を背景に重ねられるような例も含めて、ジオタグだとかビジュアルなイメージだとか、いくらでも考えつくアイデアがあります。ちょっと提案するだけで、中越の地震や阪神大震災を体験をされた方々が、そのときにこういうものがあったら良かったし、いまはないので紙芝居的にやっているけれども、実はあれはITでできるはずですよね、というようなアイデアがまたどんどん出てくるんですよね。
いまの話は1つの例だけれども、そんなふうに地元の方に一緒に入ってもらって、テーマを持ってやっていくとプロジェクトのアイデアは出てくるのではないかなと思います。
マッチングについては、1つはスタッフ自身がやろうと思っていること、やりかけていることで、誰か一緒にやらないかと呼びかけをしていくということ。それと、テーマを絞った形でプロジェクトの募集をしてみる。これらを通じて実際のマッチングにつなげられるような、我々の考えているメンター制度も含め、いったん上手くいくようなプロジェクト例を用意していってみると良いのではないかなと思います。
関:そういう意味ではspending.jp注4のクローンを作りませんか?というのはやってみたいですね。あれはマニュアルもできているので。
岩切:いっぱい作りましょうみたいな。
佐伯:量産!
関:いま8都市あるんです。
及川:あれいいですよね。GitHubにあるやつ注5を見てたんですけども、簡単にできそうで。あれを一気に作りましょうと呼びかけるのもいいですよね。
関:あれはGitHubページを使っているのでサーバもいらないんです。
石野:日本全国版は作れないのでしょうか。
関:国政版も作りたいのですが、データがかなり複雑になるので行政側の詳しい人を巻き込む必要があります。それはそれでやりたいと思っています。
データ公開をうながすしくみ作り
及川:先日、岩手の大学の先生方と話したときに、ないものはないで、わからないときはわからないで仕方ないとして、でもそれを変えるために、1つは前にやったような提言書を作るのもありますが、その場でデモ用のデータを作って、もしデータがあればこういうことができるというのをどんどん見せていく必要があるというような話をしました。
岩切:何せ見たことがないですからね。
関:結局、鶏と卵なんですよね。どちらか無理矢理にでも作る必要がある。
高橋:石巻でやっている東北TECH道場注6で、自分がいる場所の津波の高さをAR的に見せてくれるアプリを作ってくれた参加者がいました。その津波の高さのデータは市役所から紙のデータとしては手に入れられたのですが、デジタルデータにするためにそれを手で入力する必要がありました。これはデジタルデータがもしあれば、という良い事例になると思います。
岩切:自治体の現場からは、「データを公開してほしいという要望はたくさんあるのだが、なかなか手も回らないし、どう公開すれば良いかわからない」という事情が聞こえてきます。だから「公開はこうやるんですよ」というのが提案できると良いのかなと思います。
鎌田:このあいだのHackathonの東京会場でも、千代田区の方が、「できてもExcelで公開するくらいです」と言っていました。
関:そういうガイドラインづくりは進みつつあるので、徐々に整備されていくと思います。ちょっと時間はかかると思いますが。
岩切:大学の先生が来てくれて公開用のデータも作ってくれていると、研究用のテーマにしてくれるような状況だとデータの作り方も学べるからありがたいというような話もありました。
関:OpenData周りではそういう話は結構あって、Code for America注7の日本版をやりたいと考えています。どういうしくみかというと、エンジニアが1年間かけるのですが、まずは3ヵ月自治体に張り付いて働いてもらい問題を把握します。その後本部に戻って、フェローと一緒にアプリケーションをどう作るか、ワークフローをどう変えるかということを残りの9ヵ月かけて作るというものになっています。無償ではなく、それなりの対価をもらってやるしくみで、いくつか受け入れ側の話をしているところで、被災地のどこかは入れたいと考えています。1年間、凄く優秀なエンジニアが中に入って動いたら、相当良いものができるはずだと思います。
まとめ
高橋:今後、Hack For Japanをどうしていきたいかという話をすると……
関:Hack For Japanのwikiを作って、みんなにもっとHackathonをやってもらうようにしようというのはやりたいです。もっとコミュニティの力を生かせる組織にするべきだと思ってるんですよ。
スタッフが企画してというのではなく、やりたいことをHack For Japanの名前を使ってできる、ブランドやみんなのリソース、知恵を使ってやりたいことができるというようなものに、被災地のコミュニティが生まれるような手助けをしたいと思っています。あとは先ほど言ったCode for Japan。
高橋:去年のIT Bootcampでやったような教育活動も進めていきたいですね。
岩切:Hack For Japanとしての教育プログラムを作って、宮城、岩手、福島で、年1回とかでやるのは良いのかも。
高橋:何ヵ所かでやるとなると講師の数も必要になるので、スキルマッチングでアプリ開発を教えられる人を募集するのも良いかもしれませんね。
小泉:ほかにはStartup Weekend注8と組むとおもしろいと思います。Hackathonの場合プロジェクトがその場限りになりがちですが、Startup Weekendのプロジェクトは続いているものが多いです。
及川:大賛成です。Startup Weekendとジョイントしてやるのも良いし、そこのエッセンスを持って来てやるのも良いと思います。
小泉:通常のHackathonだとエンジニア以外の人は途中から暇になりがちなのですが、Startup Weekendの場合はそういう人たちも暇にならずに頑張れる印象があるんです。
及川:そのとおりで、いくつかやることがあって、たとえばカスタマバリデーションという街に出てアンケートをとって使えるかどうか考えるという作業があります。プログラム以外の仕事が山ほどあるので、エンジニア以外の人もやることが十分あるんです。
関:ぜひやりましょう。ほかの団体との連携は今年はもっと進めたいと思っています。
及川:Hack For JapanがITでの復興支援のすべてを担う必要はなくて、ほかの人たちがどこをどう埋めようとしているか、どういう協力体制を取っていけるかを話すのは良いと思います。
関:ITで支援活動をしてた人たちを集めて、一度話をする場を持つのは凄くいいなと思いますね。
及川:何も生まれなくても、知り合っておくだけでも良いと思っています。「この人に連絡できればこの辺は何とかなる」と顔が浮かぶような状況になっていて、何かあったときに早い段階でコンタクトが取れれば良いのかなと。
岩切:Hack For Iwateに県庁の人が入ってくれたのは、また何かあったときに助けてほしいと言うことができるからとのことなので、最低限の目標としてはそういうことで良いのかなと思います。
及川:防災、減災、教育といくつか柱があって、これらでちゃんと成果を出していきたいですね。そして「Hack For Japanというのは志を一にする緩やかな集まり」ということで、いままではスタッフ側から提案をしたりイベントを開催するという感じでしたが、それをやりつつ、賛同してくださる方が自発的にHack For Japanの名前の下にいろんな活動を開始してもらえるようにするのが良いと思います。今年の前半のうちには形にしていきたいですね。
注6) https://sites.google.com/site/tohokudojo/ Hack For Japanからも講師を派遣しています。
Updated on 12 20, 2013 by