Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
第20回世界最大規模のハッカソン、International Space Apps Challenge 2013
社会的課題をテクノロジで解決するためのコミュニティ、Hack For Japanの活動をレポートする本連載ですが、今回は、NASAやJAXAなどのAPI やデータを使った国際的なハッカソン、International Space Apps Challenge の模様をレポートさせていただきます。
Hack For Japanスタッフ
関 治之 Hal Seki Twitter @hal_sk
44ヵ国、83都市から9,000人以上が参加
このハッカソンは去年も開催されており、本誌の2012年7月号でも報告レポートを掲載させていただいたのですが、昨年のイベントが世界的に評価が高かったため今年も開催することになりました。昨年の2,083人の参加者に対して、今年はなんと9,000人以上が参加し、世界最大規模のハッカソンとなりました。筆者は昨年に引き続き今年も東京地域のオーガナイザをさせていただいたのですが、昨年同様、東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)やJAXAなどの協力を得て、4月20日、21日の2日間+アイディアソンを実施することができました。日本でも昨年を上回る110名以上の参加者が素晴らしいソリューションを生み出しました。
オープンデータ、オープンテクノロジ
International Space Apps Challenge( 以下、ISAC)は、オープンな宇宙観測データと市民のニーズを元に、オープンなテクノロジを使って課題解決を行おうというイベントです(図1)。NASAおよびJAXAを始めとした、世界各地の政府機関、市民団体の協力により、全大陸および宇宙空間の開発者コミュニティを結び、航空・宇宙データを活用したオープン・ソリューションを開発することを目指しました。
NASAが事前にWebサイトで公開している50のチャレンジに対し、ハッカソンで集まったメンバーが独自のアイディアを元にソリューションを考え、プロジェクト化します。そして、それに賛同したメンバーが集まってアプリケーションやサービスを開発します。ソリューションはソフトウェア開発、市民科学、ハードウェア開発、データ可視化の4つの分野に分かれており、それらの中からローカルウィナーを選出します。選ばれたウィナーがグローバルコンペティションに参加し、そこから各分野ごとのウィナーが決まるしくみです。
図1 International Space Apps Challengeのオフィシャルページ
(http://spaceappschallenge.org/)
(http://spaceappschallenge.org/)
科学未来館でアイディアソン
今年は、ハッカソンに先立つアイディアソンを、お台場にある科学未来館で行うことができました。しかも、未来館のシンボルであるジオ・コスモスの下という絶好のロケーション(写真1)。70名以上が参加し、たくさんのユニークアイディアが生まれました。視覚会議というプロセスを提供してくれたアイデア創発コミュニティ推進機構の矢吹博一さんのファシリテーションのもと、100以上生まれたアイディアの中から参加者が投票した上位、および「どうしてもこれをやりたい!」というアイディアについてチーム分けを行い、そのチームでハッカソン当日に望みました。
東京地域は18個のソリューションが完成
昨年同様、駒場東大リサーチキャンパスで行った東京地域のハッカソンでは、当日生まれたアイディアなども含めて計18チームが誕生し、各チームは2日間寝る間も惜しんで開発を続けました。1日目の深夜1時には、残っていたメンバーでAstronaut Hangoutに参加し、宇宙飛行士の方々と各会場をGoogle Hangout でつないで宇宙飛行士へ直接いろいろな質問をするといったことも行いました。
2日目の開発時間が終了した後は、デンソーアイティーラボラトリさんの会場にて発表および審査会です。今回は審査員も、前回を上回る12名+特別審査員3名と前回の5名から大幅に増えています。審査員となったのは東京大学の柴崎亮介教授、法政大学の岡部佳世氏、慶應義塾大学の神武直彦准教授、JAXA広報部長の寺田弘慈氏、LINE株式会社の谷口正人氏、デイリーポータルZの林雄司氏、日本科学未来館の今泉真緒氏、デンソーアイティーラボラトリ代表取締役の平林裕司氏、ASTRAXの山崎大地氏、無重力スペシャリストのくさまひろゆき氏ら。
各チームのプレゼンも実際のソリューションもどれも素晴らしい作品ばかりで、審査員も入賞作品を決めるのにかなり悩んでおられました。今回はその中から入賞作品をご紹介します。ここで紹介できなかったプロジェクトも含めた全プロジェクトのリストは、公式サイト注1から確認いただけますので、ご興味のある方はぜひご確認ください。
写真1 アイディアソンでの記念写真
1位 Personal Cosmos
アイディアソンのときに見た科学未来館のジオ・コスモスに着想を得て、さまざまなデータを投影できる地球型のパーソナルディスプレイを作りたいという思いでスタートしたプロジェクトです(写真2)。
前回のハッカソンでもJAXA賞を取った、クウジット株式会社の湯村翼さんがリーダーとなり進められ(写真3)、2日間で、身近で手に入る材料のみを使って実際に動作するものを作りあげてしまいました。
プロジェクションマッピング用のソフトウェアなども作成し、着想、アプローチ、時間配分、プレゼンテーションすべてにおいてハイクオリティな作品だったと思います。昨年の1位もハードウェア系のプロジェクトでしたが、今年もハードウェアが1位を取ったことはとても興味深かったです。
写真3 開発チーム
(プロジェクトサイト:http://spaceappschallenge.org/project/personal-geo-cosmos/)
(プロジェクトサイト:http://spaceappschallenge.org/project/personal-geo-cosmos/)
2位 Cloudless Spots for Solar Power Generation
東京大学空間情報科学研究センター特任研究員の、大平亘さんによるプロジェクト(写真4)。膨大な衛星データを解析して得られた日本上空の雲の割合から、ソーラーパネルの設置に優位な場所を把握できるというものです(図2)。
NASAが公開している地球観測衛星データ
(MODIS)にある日本の過去12年分の雲の情報を元に、だいたい1キロ四方ごとの晴天率をヒートマップ状に表示する機能と、太陽光発電システムの初期費用回収期間のシミュレーション機能を備えています。学者やハイスペックなエンジニアのチームで、技術的にもかなり高度なアプリケーションでした。
図2 アプリケーションのスクリーンショット
3位 Dear my SPACE DEBRISおよびMarsface Project(宇宙文明発見チーム)
3位は同点で2つのチームが選ばれました。Dear my Space DEBRISプロジェクトは「気に入ったデブリ(宇宙ゴミ)にタグ付けし、モニタリング。デブリの一生を通して宇宙のライフサイクルを感じる」というもの。宇宙上には50万を超えるデブリが存在しており、宇宙研究上も大変深刻な問題となっています。普段の生活をしていると忘れてしまいがちで実感がわかない問題を、タグ付けすることで身近に感じることを目指した点が評価されました。
Marsface Projectは月および火星表面の画像から、顔認識アルゴリズムを使って宇宙文明の痕跡(人の顔)を見つけようというプロジェクトです。産業技術総合研究所の栗原一貴氏による、Google Maps とOpenCV を使って人の顔を見つけるGeofaceプロジェクトの宇宙版といった位置づけです。栗原さんの支援も取り付け、なんと120億ピクセルに対し、3 種類の認識手法を使っていくつかの顔画像を見つけ出しました。チームラボの高須正和さんによるプレゼンの破壊力により、会場が笑いの渦となっていました。
特別賞も
このほか特別賞として用意されたカパル賞として「Making the New Constellations Sets:新しい星座を作る」、Samurai Fabヨコハマものづくり工房賞として「火星猫じゃらし」と「Linking Space and Health」、AWSアーキテクト賞として「Linking Space and Health」、「Lunar Travel Agency」および「VOY∀GER」がASTRAX賞、「Star Music」がYahoo!賞、「Dear my SPACE DEBRIS」がJAXA賞を獲得しました。
審査員の方々のうち、昨年も参加された東大の柴崎先生からは、多くのチームが昨年度よりもプレゼンテーションやソリューションの質が格段にアップしていたという評価をいただいています。発表を見に来られた方々も、たった2日間(実質的には1日半)で作られたとは思えないほどの成果物の品質の高さに驚かれていました。前回に比べるとアイディアソン、ハッカソン共に女性の姿も多く、デザイナの参加も多かったため、アウトプットも洗練されていたように思います。
グローバルアワードの結果
日本からは、1位のPersonal CosmosとCloudless Spotがグローバルアワードに進みました。5つあるグローバルアワードの特別賞は逃したものの、Personal Cosmosは「Best Use of Hardware」部門、Cloudless Spotsは「Galactic Impact」部門でそれぞれ「Honorable Mentions(佳作)」として選出されました。この「Honorable Mentions」に選ばれたのはグローバルアワードに参加した134プロジェクト中29プロジェクトのみで、かなり高い評価だったと言えるでしょう。昨年は日本から選出された2チームはグローバルアワードでは選外でしたので、今年はかなり東京地域は成長したのではないかと思っています。
何より感動的だったのは、ローカルアワードの決定後1週間ほど用意されていた、グローバルアワードに向けての調整期間において、チームメンバーではない他の参加メンバーが上位選出2チームをサポートしていたことでした。ビデオ撮影、英訳、サイトデザイン、写真撮影など、まさにオールスターなチームができあがり、日本代表チームの後押しをしたのです。
NASAより、今回のミッションレポートが公開されているので注2、世界中でどのようなことが行われていたか興味がある方は、ぜひご一読ください。
オープンデータ成功の鍵はコミュニティにあり
昨年、今年とこのハッカソンにかかわってきて思うのは、オープンデータ活動の本質は、データを使ったソリューションを生むためのコミュニティ作りなのではないかということです。日本でも政府のデータをオープンデータ化する動きが出てきていますが、データをただ公開していくだけでなく、エンジニアのコミュニティを作り、そこでさまざまなソリューションの案やプロトタイプが生まれていくような体制をいかに作るかが大事なのではないかと思っています。データだけでは便利なアプリケーションにはならず、課題解決のためにどのようにデータを使うか、どのようなソリューションを提供するために使うのか。そういった部分をドライブするようなしくみとしてのハッカソン実施というのは、コミュニティ形成上も良い効果が得られるのではないかと思っています。
Hack For Japanでは、引き続き社会的課題を解決するためのハッカソンを実施していますので、ご興味ある方はぜひ「https://hack4.jp/」までアクセスいただければと思います。
Updated on 12 30, 2013 by