Software Design 連載 第23回 Spending Data Party 2013と「税金はどこへ行った?」の広がり【その2】

この記事は、技術評論社 Software Design 2013年11月号の転載です。記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第23回

オープンデータ活用ハッカソン

Hack For Japanスタッフ

及川卓也 OIKAWA Takuya

Twitter @takoratta

社会的課題をテクノロジで解決するためのコミュニティ、Hack For Japanの活動をレポートする 本連載。今回は前回に続き、税金の使い道を可視化するための取り組みについて紹介します。

今回も前回に引き続き、7月20日と7月21日に行われた「Spending Data Party 2013」のレポートを続けます。また、石巻市版の開発の模様とその後の「税金はどこへ行った?」プロジェクトの状況についてもご紹介します。

Spending Data Partyの 成果

7 月 20 日の後半と 7 月 21 日は、自治体対応を行 うグループと新機能開発を行うグループ、そして今 後の取り組みなどについて議論するグループの 3 グ ループに分かれて作業が進められました。

自治体対応

自治体対応グループは、7 月 21 日のうちに、15 の 自治体がOpenSpendingにデータの登録を完了し、 さらに 8 つの自治体がサイトの開設を完了しまし た。7 月 21 日中の完成にはこぎつけなかったものの その後開設した自治体を合わせると、原稿執筆時で 46 都市が対応しています。
その中には、独自のユーザインターフェースです でにサイトを持っていた鳥取県注1や静岡県注2のよ うに都道府県レベルで対応する自治体も含まれています。これだけ多くの都市が対応しはじめていると、自分の自治体が対応しているかどうかを探すのも大変になってきたので、そろそろ都道府県から絞り込む機能や地図から辿っていける機能などが望まれるとの要望も出ていました。実際その後、日本版「税金はどこへ行った?」の総合サイトであるspending.jpのリニューアルが行われ、都道府県別に分類はされるようになりました。

新機能開発

新機能開発としては、ソーシャル機能の追加が挙 げられます。現状の「税金はどこへ行った?」は可視化された自治体のデータを住民が見るという一方向です。住民が税金の使い道について意見があったとしてもサイト上では伝えるしくみがありません。もし、ここにFacebookの「いいね!」やGoogle+の「+1」が付けられたり、コメントを付けられたりす れば、さらに住民参加が進むかもしれません。
Spending Data Party開催前のOpenSpending側との会議で、米国オークランドの例注3が紹介され たのですが、その中身は実に簡単でした。コメントはDISQUS注4、共有などはAddToAny注5を使っています。どちらのサービスも質問に答えていくことで生成されるJavaScriptコードを埋め込むだけで利用できます。
これを現在、東京都小金井市版注6に実験的に埋め込んでみています(図1)。同様のサービスはほか にもあるので、もしかしたら日本向けには別のサー ビスを組み込んだほうが良いかもしれないと思って います。

図1 小金井市版でソーシャル機能を組み込んだ例

図1 小金井市版でソーシャル機能を組み込んだ例

また、現在の「税金はどこへ行った?」は本家 OpenSpendingの英国版を元にしたものとなってい ますが、本家側でも世界各地の自治体対応を容易にするための改善が行われています(写真 1)。

写真 1 OpenSpending のモジュール構成を説明する西林孝氏

写真 1 OpenSpending のモジュール構成を説明する西林孝氏

OpenSpending プロジェクトは、予算や決算情報 を可視化するための元データを登録する openspending.org を中心とした、いくつかのサブプ ロジェクト(モジュール)により構成されています。「税金はどこへ行った?」のサイトの見える部分は、現在ではSatellite Templateというモジュールで実現されるものとなっています。また、税金 処理を計算するモジュールはTaxmanとい うものになります。余談になりますが、 T a x m a n という名前の由来はビートルズが 当時の英国の高い税率を皮肉って歌った同 名の曲から来ています。まとめると表 1 の ようになります。 日本版もいつかこれらの新しいモジュー ルに移行するために、いくつかの作業が必 要となります。Taxman に日本の税処理を追 加する作業は神保嘉秀氏が対応し、8 月に無 事修正がマージされています注7。Satellite-template については、西林孝氏と高野光弘氏により マルチテナント対応が試みられました。 現在の「税金はどこへ行った?」ではほとんどソー スコードが共通にもかかわらず、自治体を追加しよ うと思ったらGitHub上でプロジェクト全体を フォークし、独自にGitHub Pagesを立ち上げなけ ればいけません。プログラム本体は共通とし、自治 体独自のデータをパラメータで指定するだけで複数 の自治体をサポートできるようにしようというの が、マルチテナント対応です。残念なことに、プロ ジェクトが使っているGitHub PagesのJekyll
(Rubyを用いたサイトジェネレータ注8)では複数の インスタンスをサポートすることがそのままでは難 しく、まだ実現されていません。ただ、西林氏は Google Analysisのトラッキングコードがハード コードされている部分を修正するなど本家側への貢 献を行い、同日には同じようにSpending Data Party に参加している他国のエンジニアを IRC でサ ポートするなどもされていました。

表1  OpenSpendingのサブプロジェクト(一部)

モジュール名

役割

Githubの場所

Satellite Template

「税金はどこへ行った?」(Where Does My Money Go?)サイトを作るためのテンプレート

https://github.com/openspending/satellite-template

Taxman

汎用税金処理モジュール

https://github.com/openspending/taxman

Openspending

openspending.orgの機能モジュール

https://github.com/openspending/openspending

Openspending JS

openspendingのJavaScript。やdailybreadという一日あたりの使途を表示する部分やbubblemapという使途別予算額を実現する部分のJavaScriptなど。

https://github.com/openspending/openspendingjs

今後の取り組み

今後の取り組みを検討したグループでは、いくつ かのアイデアが議論されました。その 1 つが、可視 化をさらに進め、所得額に占める税金の割合を「市 税メーター」という形でわかりやすく表示するアイ デアです(図 2)。スライドバーで年収を変化させる と、それに応じてメーターも変化するようにしま す。これによって収入と税負担の関係性がよりわか りやすくなると考えられます。
もう 1 つのアイデアが、実際に行政コストを削減 した場合に、それで何が行えるかを示すアプリケー ションです(図 3)。村上龍氏の著作に「あの金で何 が買えたか」というものがありますが、それと同じ ように市民の努力で行政コストを削減すると、別の何にそれを活用できるかが示されます。

図 2 市税メーターのアイデア(松島隆一氏の資料より)

図 2 市税メーターのアイデア(松島隆一氏の資料より)

図 3 行政コストの削減でできることを可視化するアイデ ア(江口晋太郎氏の資料より)

図 3 行政コストの削減でできることを可視化するアイデ ア(江口晋太郎氏の資料より)

その後のプロジェクト

Spending Data Party の後もサポートされる自治体は増え、冒頭でも紹介したように本誌原稿執筆時点で46自治体が対応されています。また、島根県版を開発された一般財団法人島根総合研究所により、日本全国版も提供されました注注9。これは次のような特徴を持っています(開発者ブログ注10より)。

  • 日本全国 1800 市区町村に対応。地図から簡単に 検索可能
  • 最大 3 市区町村まで比較可能
  • 歳出(* 目的別)に加え、歳出(* 性質別)や歳入(* 財源の確認)、地方債現在高などに対応
  • 市区町村民税に加え、都道府県民税や国税(所得 税と消費税)、社会保険に対応。それぞれについて税負担率を円グラフで可視化
  • 税額計算においては、年収・年齢・配偶者・扶養家族を考慮したうえで、各種控除などを含めて計算
  • 人口ピラミッドなどの人口統計を可視化
  • 関連度の高い類似する市区町村を自動的に表示。初期設定は人口総数だが、100 以上のカテゴリから選択可能
  •  市区町村ごとの固定ページを用意

以前より自治体間の比較は希望の多かった機能な ので、このサイトが提供されたことは大きな意味を 持つことではないでしょうか。 さらに本家への貢献としては、ドキュメントの翻 訳対応などが行われています。Facebookグループ注11やGoogleグループ注12で開発者間のコミュニ ケーションが行われていますので、興味を持った方はぜひとも参加してみてください。

 

脚注

注1)http://tottori.spending.jp/
注2)http://shizuoka-ken.spending.jp/
注3)http://openbudgetoakland.org/mayor_13-15_proposed.html
注4)http://disqus.com/
注5)http://www.addtoany.com/
注6)http://koganei.spending.jp/
注7)https://github.com/openspending/taxman/pull/4
注8)http://jekyllrb.com/
注9)http://spending.souken.or.jp/
注10)http://ma-bank.com/item/1491
注11)https://www.facebook.com/groups/spendingjp/
注12)https://groups.google.com/forum/#!forum/spendingjp-dev

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Updated on 2 24, 2013 by Seigo Ishino