Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。
第28回
2013年の振り返りと2014年の方針
Hack For Japanスタッフ
及川 卓也 OIKAWA Takuya
Twitter @takoratta
三廻部 大 MIKURUBE Dai
Twitter @dmikurube
Hack For Japanでは、東日本大震災発生後の活動開始時より、1年ごとに活動の継続の要否を決定することを方針としております。今回のスタッフミーティングでも「継続ありき」という前提の議論ではなく、活動停止も選択肢に入れ話し合いました。
昨年の活動実績が少ないことなども鑑み、果たして存在意義はあるのかという厳しい視点を持ち議論しましたが、2014年も活動を継続するという結論に達しました。すでに、Hack For Japanブログでもその方針は表明しておりますが、長くHack For Japanの活動を見守っていただいている読者に向けて、この連載の上でも改めて、今後の方針をお伝えしたいと思います。
2013年の活動実績
まず、昨年の活動を振り返ってみましょう。昨年、私たちは以下のような活動を行いました。
教育:東北Tech道場・イトナブとの協力活動
2013年のHack For Japanは「教育」を軸の1つとして活動してきました。被災地そのものを活性化させ、さらに本当に必要とされているものを生み出すには、現地の産業自体が活性化して必要なものを自分たちで作れる・伝えられる環境を作る必要があると考えたからです。その担い手として、新しい人がITを学べる場を作ることが最初の一歩でした。
そこからつながって、2012年11月から継続して開催されている「東北Tech道場注1」や、「イトナブ注2」
との協力で、7月26〜28日に開催された石巻ハッカソン注3での講師・サポーターとしての活動を行いました。
International Open Data Hackathon Tokyo
2月23日に世界各地の市民がオープンデータを活用するハッカソンイベント「International Open Data Day注4」が行われ、その東京会場注5を主催しました。東京会場からは、各種の可視化プロジェクト、千代田区の地域情報を自分たちでまとめるLocalwikiや災害後の情報をまとめるダッシュボードなどのプロジェクトが生まれました。
Open Data for Future
10月2日に行われた「Open Data for Future——開発者の立場からオープンデータを考える会議——注6」に共催として参加しました。ここではHack For Japanスタッフの鎌田が「復旧・復興支援データベースAPIハッカソン注7」とその経験を元にしたAPI改善提言書をメインとした発表を行いました。
「ITx災害」会議
Hack For Japanはおもに技術・開発に焦点を当てて活動してきましたが、私たち以外にもITを活用した復旧・復興支援を行ってきた団体や個人はたくさんいました。それぞれの活動を振り返ってこれからを考え、次のアクションに結びつけるために、そのような人々が協力して「ITx災害」会議注8を10月6日に行いました。
会議は、復旧・復興支援にかかわってきた人たちからのスピーチに続く「アンカンファレンス」を主体にして構成されました。ここでは参加者が自分たちで提案したトピックを「被災者自身による情報発信」「ツールをどうするか」「連携」「IT弱者」などにまとめ、グループに分かれて議論を行いました。
また、スピーチとアンカンファレンスの間には、全日本芋煮同好会による「芋煮」の昼食が用意されました。芋煮を食べながら参加者同士で話すことで、新しいつながりも生まれていました。
さらにこの会議の後の10月26日には、減災にかかわるソフトウェアについて実際に役立つ具体的なアプローチを議論する「減災ソフトウェア開発に関わる一日会議注9」が行われています。
みなみさんりく復興マップづくり
10月12日にOpenStreetMap Foundationと「みなみさんりく復興マップづくり注10」を共催しました。今回のイベントは、南三陸町のOpenStreetMapの情報を実用レベルまで高めること、南三陸の現状を残すこと、地域の住人が地元の魅力を再発見するきっかけを作ることを目的として行われました。
「税金はどこへ行った?」、Open Spendingプロジェクト
「税金はどこへ行った?」は自治体の税金の流れを可視化するプロジェクトです。2012年の6月と7月に行われたオープンデータ活用ハッカソンにて開始されたこのプロジェクトは、入力した年間収入を元に税額が表示され、その税金が1日あたり、どの分野にいくら利用されているかを表示します。元は、イギリスのOpen Knowledge Foundationが開発したWhere Does My Money Go? のソフトウェアをベースにしており、その後もOpen Knowledge Foundationと協力しながら進められています。2013年にも、2月にInternational Open Data Day、7月と12月にSpending Data Partyを開催し、対応都市を増やしました。この活動はHack For Japanが主催ではありませんが、被災地対応ということで、宮城県石巻市版や岩手県釜石市版をHack For Japanスタッフが担当しています。
2014年の方針
震災復興を継続的に支援するためのIT開発を支えるコミュニティとして、2011年3月11日の震災直後に活動を開始したHack For Japanは、当初ITによる震災復興が活動の中心でしたが、その後、今後の災害に備えた活動やハッカー文化を浸透させる活動など、復興支援以外にも活動の幅を広げようとしてきました。
具体的には、次のような活動になります。
今後の災害に備えるための活動
—— IT防災訓練
—— 防災・減災支援ツールの開発
ハッカー文化(ハッカソンなど)を浸透させる活動
—— ハッカソン開催ガイド(ハッカソンパッケージ)
若年層へのIT教育を支援する活動
被災地のエンジニアと東京のエンジニアの交流促進
NPOやNGOと連携した海外への活動の発信
アーカイブ(記録)のための活動
Hack for Japanの活動および実績の可視化
テクノロジーで社会的課題を解決する人のためのコミュニティ作り
このように活動を広げるに際して、活動のコアとなるテーマは「テクノロジーで社会的課題を解決する人のためのコミュニティ作り」としました。これは未曾有の災害と言われる東日本大震災の復興を支援する中で、戸惑い、試行錯誤を続けるスタッフや参加者を支えたのが、やはりテクノロジーであり、コミュニティであったからです。
4年目を迎える2014年もこのテーマを維持し続けようと考えております。
ただし、2013年は、スタッフ自身もHack For Japanが主体となって行った取り組みは正直少なかったと認めざるを得ません。しかし、これは活動していなかったのではなく、Hack For Japanから派生した団体・コミュニティの活動がアクティブになったことにもよるものでした。
たとえば、アプリケーションやサービスを開発することでより良い政府を作るために設立されたCode for JapanはHack For Japanスタッフの関治之が代表としてリードしていますし、昨秋に行われたITx災害会議はHack For Japanスタッフの多くが発起人となり、その後の活動をおもに技術面から支えています。
このCode for JapanやITx災害などに代表されるように、Hack For Japanスタッフが積極的にかかわったり、Hack For Japanの活動が何らかのきっかけになり始まった取り組みは少なくありません。私たちの活動の影響だけと限定はできませんが、ハッカソンというイベントがここまで市民権を得たのも、Hack For Japanの副次的な成果と言えるでしょう。
原点回帰
このように、さまざまな方々がテクノロジーで社会的課題の解決を図ろうとしていることを鑑み、Hack For Japanは原点に回帰し、災害への対応を考えるITコミュニティとしての活動に集中します。
たとえば、IT教育も活動の1つとして考えていましたが、昨今では各地で若い世代へのプログラミング教育が行われるようになっています。Hack For Japanではそのような方々と連携し、IT教育においては東日本大震災の被災地を中心に活動したいと考えています。具体的には、東北Tech道場であったり、イトナブなどへの協力です。
また、オープンデータの公開や活用に関しても、Code for JapanやOpen Knowledge Foundationなどが積極的に取り組んでいます。Hack For Japanはそれらの活動を積極的にサポートしつつ、被災地支援の観点での取り組みを模索します。
防災・減災についてITでなすべき役割においては、ITx災害がふさわしい場であると考えられますので、Hack For Japanはその活動を技術面で支える役割を担います。
今後の予定
スタッフの話し合いの中では、Hack For Japanは緩やかにつながっているコミュニティとしても十分存在意義があることが再認識されました。たとえば、災害発生時にHack For Japanのコミュニティに連絡すれば、そこでつながり、意義のある活動を迅速に開始できるでしょう。それだけでも、東日本大震災のときよりも状況は良くなっているはずです。
このコミュニティとしてのつながりを維持・強化していくことも2014年のHack For Japanの使命だと感じています。2013年には、ほかの団体やコミュニティの活動を後援などの形でサポートしていながらも、それをHack For Japanコミュニティに共有していなかったため、結果としてHack For Japanの活動が停滞しているように見えてしまったことも否めません。今年はこのコミュニティの活性化もテーマに考えています。勉強会や情報交換会などの開催も検討中です。ブログやTwitter、Facebookでの情報発信にも再度力を入れていく予定です。
2014年も引き続き、Hack For Japanをご支援ください。
脚注
注1)https://sites.google.com/site/tohokudojo/
注3)http://itnav.jp/archives/228 本連載の第24〜25回
注4)http://opendataday.org/、http://odhd13.okfn.jp/
注5)http://tokyo-opendataday.peatix.com/
注6)http://www.mri.co.jp/news/seminar/other/002418.html
注7)http://blog.hack4.jp/2012/06/api.html(2012年6月2日開催)
注8)http://www.itxsaigai.org/ 本連載の第26〜27回
注9)http://blog.hack4.jp/2012/06/api.html
注10)http://blog.hack4.jp/2012/06/api.html
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Updated on 2 24, 2013 by