Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。
第35回
Hack For Japan気象データ勉強会 ◆第1回目 基礎編
Hack For Japanスタッフ
佐伯 幸治 Koji Saeki
Twitter @widesilverz
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回は4月に開催された「気象データ勉強会」の模様をお届けします。
はじめに
4月のことになりますが、Hack For Japanによる「気象データ勉強会」が開催されました注1。この勉強会は、自然災害が起こった際にITを利用して気象データを正しく読み取る力を身に付けることを目的としています。講師には、ゲヒルン㈱代表取締役の石森大貴さんを迎えました。石森さんは気象庁が提供するXMLの電文をもとにして災害情報を発信するTwitterアカウント「@UN_NERV」を運用され、気象データの扱いについて高い見識をお持ちです。
今回は、この勉強会で石森さんが語られた内容を再構成してお届けします(なお本稿にて事実関係などの誤りがある場合は、著者にその責任がありますのでご了承ください)。石森さんの講義では、「防災気象情報」、「緊急地震速報」、「災害と情報」、「気象庁が発表する電文・表現の意味や解釈について」、「気象情報を発信するときの注意」といった内容が語られましたが、ここでは「防災気象情報」と「緊急地震速報」を中心にお届けします。当日は石森さんが作成した気象庁のXMLの電文が見られるビューワを使いながら講義が進んでいきました。
[1]防災気象情報
気象特別警報・警報・注意報
まずは気象特別警報・警報・注意報についてです。注意報には雷注意報、雪崩注意報、強風注意報などがあります。これが警報になると雷や雪崩がなくなって大雨・洪水・暴風・暴風雪・大雪・波浪・高潮になります(図1)。表現が強風から暴風、風雪から暴風雪に変わり、注意報にしかない表現があります。たとえば雪崩は警報になりません。特別警報になると大雨は浸水害と土砂災害の2つに分かれます。洪水はなくなりますが、洪水については指定河川洪水予報として別に発表されるためです。
特別警報は数十年に1度の現象に相当する指標です。大雨特別警報では、数十年に1度の降雨量のほかにも48時間降水量や土壌雨量指数などの条件があり、それが「府県程度の広がり」という表現になって、県域全体に影響するような場合に発表されます。ですので広範囲で同時多発的に災害が起きそうなときに特別警報が発表されます。
この条件のため、大島の大雨による土砂災害(2013年10月16日に土石流が発生)では、東京都全域にかかるものでなく、局地的に大島だけだったので特別警報は出ませんでした。反対に、京都・福井・滋賀県では全域が危ないと判断されて発表されたのですが注2、雨が降っていないような地域も含まれていました。
大雪特別警報では、「府県程度の広がりをもって50年に1度、かつ丸1日以上続く場合」となっており、山梨や群馬で起きた雪害(2014年2月に発生した豪雪)では1日内で雪が終わったため、特別警報に値しませんでした。
府県・地方・全般気象情報
府県・地方・全般気象情報というものがあり、これが事前防災に役立ちます。府県気象情報というのは、東京都や宮城県など県単位で出るものです。地方気象情報になると関東甲信地方、東北地方など大きな範囲で防災について注意を呼びかけます。全般気象では西日本、東日本が中心となります。@UN_NERVでは以前は府県気象情報を出していましたが、それではツイートし過ぎるので地方気象情報に変えています。
土砂災害警戒情報
土砂災害警戒情報は、都道府県と気象庁が共同で発表する防災情報です。避難勧告を出すべきかどうか、住民が自主的に避難すべきかどうかといった判断材料になる情報です。
気象庁のサイトで解説を読んでみると、「土砂災害警戒情報は、避難勧告等の災害応急対応が必要な土石流や集中的に発生する急傾斜地崩壊が対象」となっています。逆に土砂災害警戒区域に指定された所はハザードマップを作成して住民に周知する必要があり、雨量などを計算して危険度を算出します。この情報は気象庁のWebサイトにPDFで公開されています。なぜかこれだけPDFで非常にパースしづらかったため、XMLに変換しています。
記録的短時間大雨情報
記録雨、時雨と言われます。これは数年に1度しか発生しないような短時間の大雨、記録的な短時間に降った大雨情報です。本当に局地的に降っているので、ゲリラ豪雨や局地的な気象特別警報が出せない情報は、だいたい記録雨がカバーしています。
記録雨が来ていて、何回もこの情報が出ていたら本格的に危険という状況です。気象庁のWebサイトには、「災害の発生につながるような希にしか観測しない雨量であることを知らせるために発表」と出ています。これを見たら心配してください。
指定河川洪水予報
洪水の特別警報がないのはこれがカバーしているためです。どんな情報が来るかというと、はん濫危険水位を超える水位です注3。指定河川洪水予報にはレベル分けがあって、はん濫注意情報、はん濫警戒情報、はん濫危険情報、はん濫発生情報と段階的に情報が出てきます。XMLの中には観測所ごとにこれらの情報がバラバラに入っていますので、一番危険な情報を取り出すか、全部取り出すか、自分でポリシーを決める必要があります。
はん濫注意情報は、はん濫注意水位に到達し、さらに水位の上昇が見込まれるので、住民ははん濫に関する情報に注意すべきという情報です。避難に時間がかかりそうなお年寄りや幼児が避難するかどうかを判断するよう、避難準備情報で促します。
はん濫警戒情報では、避難判断水位に到達して、さらに水位が上昇すると避難勧告を発表するレベルとなり住民は避難します。
はん濫危険情報では、はん濫危険水位に到達して猶予がないので、住民は避難を完了しているべきであるという情報です。
はん濫発生情報は川が溢れていますという情報なので、次にほかの観測所などで溢れる心配がないかを急いで検討する必要があります。
なお、はん濫注意情報は洪水注意報に相当していて、ほかのものは洪水警報に相当しています。
竜巻注意情報
竜巻が近づいてくると雷が鳴って、雹が降ってきて、びっくりするくらい雨が降ります。NHKなどでは、竜巻と断定されるまでは「竜巻のような突風が吹いた」という表現になっています。これは都道府県単位で出てくるのが一般的です。本当は局地的に発生していますが県全域が含まれます。また、1時間の有効期限がある情報です。1時間を過ぎてもまだ危険となると、もう1回同じように出し、電文が飛んでこなかったら解除されたと判断します。
予測には竜巻発生確度ナウキャストを使っています。これは確度なし、確度1、確度2と3つの段階で判断します。確度1は的中率が1〜5%、確度2は的中率が5〜10%です。なんだ10%か、と思われがちですが、気象庁によると「竜巻などの激しい突風は人が一生のうちほとんど経験しない希な現象であり、確度1でも確度2でも、普段と比べると遭遇の可能性が格段に高い状況」だということです。
確度2のときは本当に危険な状況で、竜巻注意情報というのは確度2に当てはまったときに発表します。数日前から府県気象情報などで大気の状態が不安定と予想され、いざ不安定になると雷注意報が出ます。それより天気が悪くなってナウキャストが確度2を示すと、この情報が発表されます。この情報が出ていると、その県のどこかは天気が本当に悪いと判断します。今にも竜巻が起こりそうだ、もしくは発生しているという気象状況です。
[2]緊急地震速報
地震動
緊急地震速報と震度速報、震源に関する情報、震源震度に関する情報、各地の震度に関する情報というのが出ており、すごいのが緊急地震速報です。揺れたら数秒後、数十秒後に情報が届きます。実際に震度計で観測した1分半後に集計してきます。約3分後に津波があるかどうかを判断します。津波に関する情報が発表されたときは、震源に関する情報は出ません。震度1以上を観測すると「各地の震度に関する情報」が出てきます。震度速報は地域を188に分けて出てきます。
やっているのは@UN_NERVとNHKだけだと思いますが、188の地域名を手動で変えています。電文では広島県北部、福島県会津などと出ますが、それを県や地方を削ってなるべく多くの情報がTwitterで出せるようにしています。震度速報の図は震度マップを生成するシステムで、これはオリジナルで作りました。
震源に関する情報
これは津波警報や注意報が発表されたときには出ませんが、注意報の下の津波予報という区分では発表されます。「若干の海面変動があるかもしれないが被害の心配はない」といった表現となります。
震度と震源の情報が電文では別々に提供されますが、@UN_NERVではこれを組み合わせて一緒に出しています。どうやって組み合わせるかというと、ヘッダの中にイベントIDという電文——僕らは地震IDと呼んでいます——があるのですが、そのIDで何の地震か、どの地震かがわかるので、それを利用しています。緊急地震速報も地震IDが飛んでくるのですが、緊急地震速報と震度速報と震源に関する情報とで、同じ地震に関する情報でも地震IDが違うときがたまにあり、この点は注意が必要です。これは地震発生時刻をもとにしているので、観測の仕方によって震源場所がずれてくると、発生時刻もずれてくるためだと考えられます。
震源震度に関する情報
震度3以上、津波警報または注意報発表時に若干の海面変動が予想される場合、緊急地震速報(警報)を発表した際の情報となります。各地の震度に関する情報が別にあって、XMLの場合には、「震源震度に関する情報」が「各地の震度に関する情報」も一緒に入ってきます。なお地震の規模という言い方、これは気象庁マグニチュードというもので、マグニチュードは飽和という性質をもち、マグニチュード8を超えると飽和により正確な値がわからなくなります。そういうとき、津波情報などでは「マグニチュード8を超える巨大地震」という表現で詳しく分析が終わるまでは置いておきます。
津波情報
地震発生から最速2分くらいで津波情報が出てきます。これは緊急地震速報の賜物です。緊急地震速報で規模、場所、深さをおおよそ推定できることから、こんなに早く津波情報が出せるようになりました。津波注意報と警報と特別警報の3種類があります。津波注意報は“海岸から離れてください”というレベルで、津波警報や大津波警報になると人命が心配されます。
@UN_NERVはこの情報を気象庁から受け取って、震度マップと同じようなエンジンで津波に関する情報を自動的に生成してTwitterで流した経験があります。@UN_NERVでは予想される津波の高さは出さないことにしています。本当に大きいときは“巨大”などといった高さの表現をしています。それは今わかっている高さでは実際よりも低く見積もっている可能性があり、数値をあてにすることで避難が遅れてしまうことのないようにするためです。しかしながらNHKが速報フラグを立てて情報を出すと、@UN_NERVでもツイートされるため高さが出てしまう場合もあります。
緊急地震速報
予報と警報の2種類があります。予報は高度利用者向け緊急地震速報というもので受信できます。警報(特別警報も含む)は一般向け緊急地震速報で、携帯・テレビ・ラジオで受信できます。基準は震度5弱以上が予想されると警報という扱いになります。震度5弱を震度5だと理解している方がいると思われますが、1,000円弱というと998円となるように、計測震度において4.5以上5.0未満が、震度階級注4での震度5弱と換算されます。
@UN_NERVでは警報のときは強い揺れが予想される地域を出し、予報のときにはちょっと細かい予報でマグニチュードや最大震度が出てきます。
[3]災害と情報
災害が起こる前には、実はいろいろな情報が流れています。地震や津波はほとんど間に合いませんが、大雨・竜巻などは事前に情報が出ます。気象情報だと2日前などに、注意報・警報、河川があふれそうだといった情報が5段階のレベルで出てきますし、土砂災害警戒情報が出て、記録雨が出て、特別警報が出た後は、情報がほとんどないので、ぼーっとしていたら逃げ遅れます。事前に住民は自分で判断して、自治体もこれらの情報を鑑みて避難準備情報くらいは出すべきです。
住民も避難と聞いたら避難所に行きがちなのですが、避難所が潰れるパターンもあるので、避難と聞いたら「最も自分が安全な場所に身を移す」という行動だと思ってほしいです。
最後に
当日は石森さんのわかりやすい説明に加え、「エンジニアとしては放送やインターネットを通じて、迅速かつ的確にこの情報を伝える使命がある」と強く語っていたのが印象的でした。最後に石森さんを含め、登壇いただいた気象庁の杉山善昭さん注5、長田泰典さん注6、先進IT活用推進コンソーシアムの菅井康之さん注7、Yahoo! Japan防災速報チームの杉本康裕さん、東北放送の吉田信也さん注8、会場を貸していただいたさくらインターネットさん、参加いただきました皆様に感謝いたします。
脚注
注1)当日の模様はYouTubeに公開しています。詳しく知りたい方はぜひご覧ください。本文で紹介している石森さんの講義はpart-2の18分30秒くらいからです。またTogetterにもまとめられています。
・気象データ勉強会 http://www.youtube.com/watch?v=owYZaMRjmnQ
・気象データ勉強会part-2 http://www.youtube.com/watch?v=BFRFxZEsXzQ
また、石森さんが当日使用したスライドは次のURLからダウンロードできます。より理解が深まりますのでぜひ活用ください。 http://isidai.kvs.gehirn.jp/public/hackforjapan_meteorological_1.pdf
・Togetterまとめ URL http://togetter.com/li/656335
注2)2013年9月16日5時5分に京都府・福井県・滋賀県に特別警報が発表。なおNHK NEWS WEBでは2014年9月3日に「特別警報 運用1年 課題も」という記事を公開。特別警報のあり方について報道しています。 http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2014_0903_02.html
注3)「河川の増水やはん濫などに対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、気象庁が国土交通省または都道府県の機関と共同して、あらかじめ指定した河川について、区間を決めて水位または流量を示した洪水の予報」のこと(気象庁のサイトより)
注4)震度階級と計測震度について URL http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/kyoshin/kaisetsu/calc_sindo.htm
注5)杉山さんのスライド URL http://isidai.kvs.gehirn.jp/public/sugiyama_20140417Hack4JP.pdf
注6)長田さんのスライド http://isidai.kvs.gehirn.jp/public/
注7)菅井さんのスライド http://www.slideshare.net/yasuyukisugai/hack-for-japan-33638000
注8)吉田さんの資料まとめ https://www.facebook.com/groups/hack4jp/permalink/625223720894413/
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Updated on 2 24, 2013 by