Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。
第10回
オープンデータ活用ハッカソン
Hack For Japanスタッフ
及川 卓也 Takuya Oikawa
Twitter @takoratta
鎌田 篤慎 KAMATA Shigenori
Twitter @4niruddha
佐伯 幸治 SAEKI Koji
Twitter @widesilverz
東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたいというエンジニアの声をもとに発足された「Hack For Japan」。今回はCode for Japan Summitの併催イベントとして開催した防災・減災ハッカソンをレポートします。また関連コラムとして「Code for Japan Summit」、「イベント開催ガイド」についてもお届けしますので、ぜひご一読ください!
防災・減災ハッカソン
2014年10月12日にCode for Japan Summitの併催イベントとして「防災・減災ハッカソン」が開催されました(写真1)。場所は東京大学駒場リサーチキャンパスとなり、久しぶりの東京でのハッカソンです。なおサテライトとして会津若松会場も開設されました。
今回のハッカソンでは、防災・減災のテーマに沿った多様なアイデアが見られ、目的の明確なプロジェクトが出そろったのが印象的でした。ハッカソン終了後も継続しているプロジェクトも見られますので、興味をお持ちの方はFacebookのグループページ注1に参加してください。それではプロジェクトを紹介していきます。なお当日の動画や資料のリンク先もお伝えしておきます注2。
自治体公式Twitterアカウントの数値をインフォグラフィック化
防災情報を発信している自治体のTwitterアカウントがどれだけあるかをインフォグラフィックでまとめました。たとえば「全国1741市区町村のTwitterアカウント導入率は約28%」(図1)、「防災情報を発信している都道府県の公式Twitterアカウントは34自治体」といったものです。これらの数字は、ITで災害に対して何ができるかを考え、実践する試みを模索している「ITx災害コミュニティ注3」の調査結果注4によるものをベースとしています。
なおインフォグラフィックについては、後日公開する予定です。さらにWeb上でインタラクティブに見られるコンテンツを用意することや調査結果データをオープンに公開することも検討されていますので、報告できるようになりましたらお知らせします。
情報収集・整理・発信・再利用
複数の参加者から情報収集・再利用・発信のアイデアが持ち上がったことから、それらのスキームをまとめ、4つのチームで分担してプロジェクトとしました(図2)。
[1]公的情報に関するプロジェクト
このプロジェクトは2つあり、1つは地方自治体のWebとTwitterから更新された情報をスプレッドシートに落とし込むツールを開発。このツールを使うことで、どのような更新があったかを後から一覧で追えるようになります。もう1つは「災害情報収集」というTwitterアカウントを作成して、このアカウントがフォローしているアカウントのツイートをGoogleのBigQueryに収集。BigQueryに集めた情報をハッシュタグなどで検索して情報の再利用を図ることが可能となります。
[2]さまざまな情報に関するプロジェクト(ゆるふわ情報収集システム)
公的な情報だけでなく、災害時に役立ちそうなあらゆるツイートを集めてマップに表示。表示された情報に対してボランティアで情報支援したい方が、追加情報を書き込めるシステムを検討しました。たとえば「江東区木場の公民館で給水中」といったツイートを捕捉し、江東区木場や公民館といった住所・ランドマークなどの言語を抽出してマップに表示します。前述のプロジェクトとは違い、公的な情報以外の情報も扱うことから「ゆるふわ情報収集システム」と呼ばれています。
[3]災害用マルチクライアントポストのプロジェクト(UNIポスト)
FacebookやTwitter、地域密着型なども合わせてSNSは複数存在し、情報が分散しやすい状況があります。また標準化の問題としてデータが統一されておらず、ユーザが災害情報を投稿する際には、決められたハッシュタグを使ってつぶやくといったルール化も図られていません。そこでさまざまなSNSに誰でも簡単に内容を入力して投稿できるアプリを作成。SNSに投稿された画像や位置情報を自動的に取得して、災害情報ポータルサイトにまとめていくことも想定しています。アプリ名のUNI(ウニ)ポストはunifyポストが由来です。
災害時の連絡先チェックリスト
備えあれば憂いなし/俺の電話帳:パーソナルイエローページ 避難場所、保険会社、マンション管理人、親・友人・親戚など、災害が起こった際に必要となる連絡先のチェックリストを用意。平時にそのチェックリストを埋めていくことで、どこまで備えているかを確認できるツールです(図3)。災害時にはこのリストを使って、慌てずに連絡をすることができます注5。
災害時の位置情報投稿
HereNow 位置情報<生存>共有アプリ
参加者の被災体験から考えられた位置情報投稿アプリ。震災時においてもネットワークは20〜30分程度つながっていたことから、限られた時間を活用して位置情報を投稿、場所を知らせます(写真2、図4)。「アプリを起動してワンタップでツイート」、「ツイートするときにだけネットワークを使う」、「投稿内容はあえて編集不可とする」、「ウィジェットからも1タップで利用可能」といった災害を想定したシンプルさを徹底したアプリです。現在はAndroidアプリが公開されており注6、誰でもダウンロードできます。またiOS、Webからでも利用可能となるように開発が進められています。
過去の災害を学びに
Today
過去の今日の日付でどんな災害が起こったかを表示してツイートします。参照元はウィキペディアの災害情報ページです。過去どのような災害があったのかを学ぶことで、来るべき災害への対策を考えることもできます。
大学生向け防災・減災まとめ:行政及び大学への提案
サテライト会場である会津若松からは、大学生をメインとした防災・減災に関する提案がなされました(図5)。
当日のハッカソンでの調査では「大学生は県外から来る人も多く土地勘がない」、「大学の中のコミュニティに限られてしまっている」、「自転車が主な移動手段で行動範囲が狭い」、「一人暮らしの場合、安否確認が困難」、「震災時、会津大学ではメールサーバが止まり、学生のメールアドレスに連絡をする際に時間がかかった」、「留学生も多い」、「会津大学生の多くは避難所を知らない」、「会津若松市のサイトでは市民に向けた防災情報はあるが、大学生に最適化された情報も欲しい」、「会津大学のサイトには防災情報がない(福島大学にはまとまった情報が掲載されている)」といったことが問題とされました。そこで次のような内容をまとめ、今後、行政と大学へ提案していく予定です。
【行政への提案】
会津大学への出張防災教室/オープンデータを促進させて会津大学向けシビックハックをサポートしてもらい防災アプリを開発/会津大学の学生がつくった防災アプリを市で認定することで、開発するモチベーションに貢献してもらう/各国語の防災情報の発信
【大学への提案】
学生が住んでいる地域を考慮して大学関係者・在校生向けに防災教育/留学生向けの各国語防災マニュアルを作成/大学が避難所になるケースもあるので施設概要・キャパシティ・備蓄などの情報を開示/311で放射線のスクリーニングを会津大学で実施したが、職員が転勤で変わるとそういった非常時のケーススタディが蓄積されにくいので、災害が起こったときのためにケーススタディを公開/安否確認ツールの開発(このツールだけでは使われない可能性もあるので、時間割アプリなどと組み合わせて常時使えるものに)/学生の防災・減災ハッカソン支援
当日は、留学生に向けた防災情報の英語ページ、会津大学周辺の避難所マップをGoogleマップで公開するといった実際のプロジェクトも発表されました。また、大学生に対する防災・減災については会津大学だけの問題ではないことから、全国の各大学に展開できるように、必要な情報の洗い出しをしていくことも考えています。
以上、防災・減災ハッカソンのレポートをお届けしました。ここで紹介したプロジェクトのブラッシュアップも兼ねて、今後あらためてハッカソンなどが開催できればと考えています。今回参加できなかった方も次の機会にはぜひご参加ください。当日ご参加いただいた皆様、共催としてご協力いただきましたCode for Japan、東京大学空間情報科学研究センターに感謝いたします。関連資料のリンクもまとめておきます注7。
<<コラム1>> Column Code for Japan Summit 2014について
皆さんは、「Code for Japan」という団体があるのをご存じでしょうか? Hack For Japanに似た名前ですが、市民が主体となり、技術を活用して地域課題の解決に取り組むコミュニティがこのCode for Japanです。2013年の11月に正式に非営利団体として発足しました。代表理事はHack For Japanのスタッフでもある関治之さんです。
Code for Japanには技術者を一定期間自治体に派遣するフェローシップというプログラムがあり、本年、その第一弾として福島県浪江町でのフェローシップが開始されました。また、地域でCode for Japanの活動に賛同して活動を行っているコミュニティをブリゲイド(Brigade)と呼びますが、本原稿執筆時点ですでに21(掲載準備中が19)の地域でこのブリゲイドが立ち上がっています。
Code for Japan Summit 2014は、このCode for Japanの最初の日本でのカンファレンスです。10月10日から12日まで、六本木にあるグーグル㈱のオフィス(10日のプレイベント)と東京大学駒場リサーチキャンパス(11日と12日)で行われました。先ほど説明したブリゲイドやフェローシップを行っている浪江町の関係者、自治体や政府関係者、シビックテックと呼ぶ技術を用いた市民活動に興味を持つ技術者やデザイナーなどが広く集まりました。
東京大学駒場リサーチキャンパスでの初日にあたる11日は、コアデイとして午前中はオープニングトークやキーノート、パートナートークが行われ、午後には各部屋ごとにあかかじめ決められたテーマでのセッションが行われました。トークやセッションの一覧はSummitのサイトに掲載されています。また、12日はアンカンファレンス形式で、参加者でトピックを決めて活発な議論が交わされました。
Code for Japanは発足してまだ1年ですが、すでに多くの地域で活発に活動を開始しています。皆さんの地域にも、もしかしたらすでにブリゲイドが立ち上がっているかもしれません。ぜひともこの機会に参加を考えてみてください。
<<コラム2>> Column イベント開催ガイドのご紹介
Hack For Japanではこれまで東日本大震災に端を発する復興支援活動やそれにつながる活動、また今回のような防災や減災につながる活動として、ITを活用したさまざまなアイデアソンやハッカソンを実施してきました。イベントの時間内で動くサービスを作るもの、復興支援に役立つものを普及させるためのイベント、コミュニティを作るためのイベントなどに携わった3年以上に渡る活動経験が、こうしたITを活用した何かしらの支援活動を行う際の参考になればとの思いからこれらの活動を類型化し、「Hack For Japanイベント開催ガイド」として公開しました。
このガイドで解説しているイベントは震災復興という状況下の活動を元に作成していることもあり、ITの知識が必要とされるものだけではありません。ITの知識は持たないが何かしらの課題に関する知見、たとえば震災復興で言えば、被災地で活動される現地の方といったITに明るくない方たちも参加できることを意識して作られています。
我々はこれまでの経験から、何かのシステムを開発することばかりが重要なのではなく、緩やかにつながるコミュニティを作り、育成していくことの重要性を認識しています。それは将来、また別の大きな災害が起きることを想定しているからです。2011年3月11日の震災発生時点ではすべてが手探りの状態から始め、はじめて顔を合わせる開発者達同士が力を発揮するには、あまりにも時間が限られていたという苦い経験があります。そのためにも本稿で紹介したような防災・減災ハッカソンといったイベントを定期的に開催することで、緩やかにつながるコミュニティを作ることを目指しています。
また、そうした活動に限らず、普通にハッカソンを開催してみたい人にとっても運営の勘所や事前に必要な準備、当日の運用の流れなどがつかめるものになっています。このガイドはクリエイティブ・コモンズで公開されていますので、独自でカスタマイズもしていただけます。読者の皆さんがイベントを開催する際の参考になれば幸いです。
我々は多くの開発者達がこのイベント開催ガイドを元に各地でアイデアソンやハッカソンのようなイベントを開催し、その地域に根ざした緩やかにつながるコミュニティが少しでも増えることを願っています。
脚注
注1)防災・減災ハッカソンのFacebookグループ(アイデアやプロジェクトが見られます)
注5)(開発中サイト)http://sonae.hack4.jp/ https://github.com/orenodennwacho/orenodenwacho
注6)https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.itnav.herenow
注7)Togetterまとめ「Code for Japan Summit 2014アンカンファレンス #cfjsummit」 「防災・減災ハッカソン」これは凄いと大感動(参加者のブログ)
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Updated on 2 24, 2013 by