Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。
第42回
街をハックする! Hack For Town 2015 in Aizu開催
Hack For Japanスタッフ
佐伯 幸治 saeki koji
Twitter @widesilverz
佐々木 陽 sasaki akira
Twitter @gclue_akira
昨年に引き続き街をハックするイベントが会津若松市にて開催されました。今回のテーマは「オープンソースハード×オープンデータ」。ハッカソンだけでなく食べて、観る楽しみも堪能できるイベントでした。その詳細をご紹介します。
ハッカソン概要
2月21、22日に会津若松市にてハードウェアをハックするHack For Town 2015 in Aizuが開催されました。Hack For Townは「最先端テクノロジを用いて新しい街を創造するハッカソンイベント」という趣旨で、昨年、会津若松市で始まり、2回目の日光市での開催を経て3回目となります。
今回のHack For Town 2015 in Aizuのテーマは「オープンソースハード×オープンデータ」でした。オープンソースハードはFab蔵(後述)で開発されているセンサー・デバイス類やArduino、Raspberry Pi、そのほかSDKやAPIが公開されているオープンなハードウェアのことです。またオープンデータは、会津若松市が運営しているデータ基盤「DATA for CITIZEN」に登録されている市のデータや、社団法人リンクデータが運営している「Link Data」の会津若松市のデータなどの公開されているデータのことです。これらを組み合わせたアプリやWebサービスをつくるというのが今回の目標とされました(写真1)。
Fab蔵で開発されたハードウェアやデバイス
Fab蔵とは会津若松市にできたものづくり支援Labで、定期的にワークショップやハッカソンなどを開催しており、Hack For Japanスタッフでもある佐々木が運営しています。今回のハッカソンで利用されるハードウェアには、このFab蔵で自作した次のような数多くのハードウェアが提供されました。
・8bit cube:フルカラーLEDのキューブ
・Smart Meter:コンセントの電力が計れるスマートメーター
・e-Health Platform:IEEE11073準拠のオープンソース医療センサー群。心電図や脈拍、血圧などが取れるのでヘルスケア分野でのサービスがつくれる。回路図などを公開している
・Physical Web Watch:Physical WebフォーマットのBeaconを腕時計にしたもの。Beaconは通常、据え置きで使われるが、腕時計にすることでBeaconの電波を発しながら歩ける
・Open LED Board:手作りのLED
・Aka Beacon Monster:450mの電波を発信できるibeacon
・自作ibeacon
Fab蔵には3Dプリンタ、レーザーカッター、電子回路をつくるようなプリンタなどに加え、約4,000点の部品、工具などなど、ものづくりに必要なツールがそろっています。ハッカソンの期間中は24時間解放されていたので、たとえばレーザーカッターを使って、ハッカソンで開発するサービスに必要なものづくりまで手がけてしまうといったことも可能でした。
上記のハードウェア以外にも、ibeaconを常設している場所が、神明通りと呼ばれる商店街を中心にして、FM会津やホテルのロビー、公共施設など会津若松市内に5ヵ所あります。これらibeaconの情報は会津若松市オープンデータ活用実証事業の一環として「DATA for CITIZEN」にて公開されていますので、常設のibeaconを利用したアプリやWebサービスの開発もできる環境が整っています。450mの電波が飛ぶibeacon「Aka Beacon Monster」が今回のハッカソンのために神明通りの中央付近に設置されていたこともあり、「Aka Beacon Monster(広いエリア)」と「常設のibeacon(狭いエリア)」とを組み合わせたサービス設計も可能となっていました。
プロジェクトの発表
今回のハッカソンでは次のようなプロジェクトが成果として発表されました注1。
●「防水beacon開発とお祭り案内」
日光で行われる千人行列を想定したibeaconを使ったプロジェクト。遠方(450m圏内)から行列が近づいてくると「Aka Beacon Monster」が見学者に行列が近づいてきたことを案内し、行列が見学者に近いところまで来ると付近に設置されたLEDディスプレイに行列に関する文字情報が表示されるというもの。ibeaconは常設で外に置かれるため防水対策が必要という観点から、アクリルを使用した防水カバーもFab蔵で自作。防水パッキンを閉める専用工具も作成しました。
●「Hack 2 Rhythm」
ibeaconへのチェックイン情報を元に音楽を生成。ドライブレコーダーのように動画も撮影し、観光しながら自動でプロモーションビデオ(PV)が生成されるというプロジェクト。観光スポットにばらまいたibeaconにドラムやベース、ギターなどのパートを割り当てて、ibeaconにチェックインするごとに音が重なっていくというもの。歩くルートによって生成される音楽が変わるため、結果として会津若松市の観光スポットPVが数多く作られ、音を通じて新しい観光の付加価値を生み出し、会津若松市に注目を集めることを目標としています。イメージ動画(YouTube)
●「Weather Report Box」
Fab蔵の自作ハードウェアである8bit Cubeをハック。会津若松市の天気(晴れ・曇り・雨・雪)をドット絵で表示させるというもの。今後は時間や気圧、気温なども加えて表示させていきたいとのことでした。
●「ibeaconとGPSによる旅提案」
「観光に来たものの、どのスポットを見るか決めていない」、「見たいスポットはまわってしまったけれど、まだ時間があるのでほかのスポットを見たい」といった旅行者をターゲットとしたアプリ。現在地から行ける観光スポットを詳細に案内せず、あえて写真のみでレーダー表示させることで宝探しのような楽しみを入れ込んでいます。観光スポットの情報は「DATA for CITIZEN」から持ってきており、オープンデータを活用。写真投稿機能も想定されています。このプロジェクトを開発したのは仙台の方で「仙台の街中で開催されるジャズフェスに向けて使えるものに仕上げていきたい」と語っています。
●「デジタルサバゲーで街をハックしよう!」
サバゲーによる新しいエクササイズを提供するプロジェクト。エンジニアの運動不足を改善したいというのが開発のきっかけ。発表では、Bluetoothで通信を飛ばすことで敵方へのアタリとする構想や、段ボール製のBLE(Bluetooth Low Energy)モジュールが搭載されたエアガンを模したものが披露されました。また、アプリはGoogleマップを使って自分と敵の位置がibeaconを通過すると表示されるという使い方を想定しており、おおよその位置が把握できるように、一瞬だけマップで表示させることで運動を促すというのがエクササイズにつながっています。
●「オープンストリートもぐら叩き」
防災学習GISゲームとして提案されたプロジェクト。災害が起きたときに、どこで起きているのか、どこに避難すべきか、場所がわからないと避難できないことから考えられたものです。発表ではオープンストリートマップを利用して会津若松市内のマップを読み込み、市内の公共施設で火災が発生したと想定して、マップ内の火を消していくというゲーム要素を盛り込んだ内容が発表されました。次々に起こる火災をゲーム感覚で消火していくうちに、会津若松市内の土地勘が養われることを目標としています。
●「Dynamic Trip」
事前に情報を調べることなく、突発的な旅の体験を提供するアプリとして提案されたプロジェクトです。たとえば出張で東京に行ったときに、現在地に近い観光スポットを紹介することでちょっとした旅行を楽しめるようなサービスを想定。時間、位置情報、レコメンドされた現地イベントなどを掛け合わせて提供して、自分なりの予定外の旅をつくりだすというものです。
●「ファミコンで街をハック」
「古いデバイスをハックしてibeaconをつなげる」というプロジェクト。今回は思い出のデバイスとしてファミコンをハックしました。ファミコンをモバイル化してゲームで遊んでいる人間ごと台車で運び、街でibeacon情報を受信するという、ほかとは一線を画す内容でした。ibeaconの情報を受け取りながらアイテムを集めるという自作のファミコンゲームも作成しました。
これらのプロジェクトから審査委員による審査が行われ、会津若松市長賞として「Hack 2 Rhythm」、ゴールドスポンサーとして協賛いただいた(株)リクルートジョブズからタウンワーク賞として「オープンストリートもぐら叩き」、Fab蔵賞として「ファミコンで街をハック」、会津大学賞として「Weather Report Box」、Hack For Japan賞として「Dynamic Trip」がそれぞれ賞を受賞。賞品もいただきました。また残念ながら受賞できなかったチームも会津若松市産の野菜をいただき、結果としてすべてのチームが賞品を得ていました。
ハッカソン以外のイベントも!
今回のハッカソンでは昨年に引き続きイベントが盛りだくさんに用意されていました。1日目の昼食は「ソースカツ丼祭り」。会津若松市の有名グルメであるソースカツ丼を楽しむイベントです。ガイドブックを参考に市内に多数ある飲食店から好みのソースカツ丼を食べにいくというもの。参加者には1,000円分(!)のチケット代が振る舞われました。大きさや味付けなどで何パターンもあるとのことで、チームごとに思い思いのお店でソースカツ丼を楽しんでいました。
1日目の夕方には、会津若松市の協賛で特別招待券を用意していただいた「鶴ヶ城プロジェクションマッピング」の鑑賞も開催されました。このイベントは、震災からの復興の願いと前進の思いを込めて催された期間限定のもので、テレビドラマ『あまちゃん』の音楽で有名な大友良英さんなどが作家として参加されています。赤べこをテーマにしたお話が鶴ヶ城の壁面に映し出され、見事な演出を堪能しました。 2日目の昼食は「蕎麦祭り」です。名人による蕎麦が振る舞われました。蕎麦はもちろん手打ちで、薬味は天然のわさび。薬用ニンジン、シイタケ、饅頭、クレソンかき揚げ、野菜ミックス天、ニシンなど会津名産品も含めた天ぷらが用意されており、豪勢な昼食をいただきました。
こうしたイベントだけでなく、ハッカソン会場から徒歩圏内に鶴ヶ城をはじめとしたいくつもの観光スポットが存在しますので、ハッカソンの途中に街に繰り出して観光を楽しむことができるのも今回のハッカソンの特色と言えるでしょう。
最後に
今回のハッカソンでも昨年に引き続き多くの方々の協力をいただき開催されています。まずはメンター・審査員として参加いただきましたエンジニアの安藤真衣子さん。安藤さんはMashup Awards 10にて「無人IoTラジオ Requestone(リクエストーン)」で最優秀賞を受賞されており、2日間にわたって各グループの具体的な実装部分やサービス内容についてアドバイスをいただきました。次に会津若松市役所の方々。事前準備から会場手配・設営、鶴ヶ城プロジェクションマッピング、ソースカツ丼・蕎麦祭りといったところでご協力いただきました。またご多忙の中、室井照平・会津若松市長、岡嶐一・会津大学学長には、審査員として参加いただきました。ありがとうございました。
「昨年はibeaconを街中に設置して実際に街中で自分で作ったアプリやソフトを試せる場をつくり、なおかつお祭りの感じも出したいので、蕎麦やソースカツ丼などの食べる楽しみを設けました。今回のテーマはオープンソースハード。昨今の流れとしてハードウェアがオープン化されていることもあり、手作りのハードとオープンデータを組み合わせて、インターネットだけで完結していたサービスをハードを絡めて、リアルとうまく連携したアプローチをしていきたい」(スタッフ佐々木)ということから開催されたハッカソンでした注2。
テーマは都度変わっていきますが、街中に繰り出して試すというハッカソン形態は今後も続く予定です。次回はまだ未定ですが、機会がありましたらぜひ参加してみてください。またFab蔵では随時、ものづくりに関するイベントが開催されていますので、興味ある方はそちらもご参加ください。
Column お得&注目の福島観光キャンペーン!
福島では6月30日まで「ふくしまデスティネーションキャンペーン」という観光キャンペーンを実施中です。これは『地元観光関係者と自治体が、JRグループをはじめ全国の旅行会社などと連携しておこなう国内最大級の観光キャンペーンです。期間中、福島県内ではさまざまなメニューをご用意して、全国からの観光客の皆さまをお迎えします。』(ホームページより)というものです。また、6月以降は観光客の宿泊費を補助する事業もスタート予定とのこと。福島観光のチャンスです!
脚注
注1)各プロジェクトの資料はブログにてご覧いただけます。 http://blog.hack4.jp/2015/04/hack-for-town-2015-in-aizu.html
注2)イベントの模様はtogetterにまとめられています。http://togetter.com/li/798354
この文書は、クリエイティブ・コモンズライセンスの下に提供されています。
著作者の表示・非営利・改変禁止の条件に従い、この文書を再利用していただけます。
Updated on 2 24, 2013 by