Hack For Japan
エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。
第41回
地元を盛り上げる萌えキャラ「渚の妖精ぎばさちゃん」
Hack For Japanスタッフ
小泉 勝志郎 Katsushiro Koizumi
Twitter @koi_zoom1
塩竃の離島、浦戸諸島も津波による大きな被害を受けた場所です。この離島を舞台に行われたハッカソンで、地域振興のために生まれたのはなんと萌えキャラ。しかもモチーフは海藻。この大胆なギャップ萌えキャラクターに、ラブアローシュート!
連載始まって以来の異色回?
いままで震災復興へのITでの取り組みを紹介してきた本連載ですが、今回は今までで一番の異色回! 萌えキャラ「渚の妖精ぎばさちゃん」についての紹介をします(イラスト1)。
♥渚の妖精ぎばさちゃん公式サイト http://gibasachan.com
ぎばさちゃんはアカモクという海藻をモチーフにした萌えキャラです。「なぜ萌えキャラ?」と思う方も多いでしょう。実はこの連載でも二度ほど登場してるんです。
普段はTwitterを活躍の中心としているぎばさちゃん(TwitterID:gibasachan)。今日はTwitterを飛び出てSoftware Design誌上に遊びに来てもらいましょう! では、ぎばさちゃん自己紹介お願いします!
★★★★★★
ぎばさちゃんってどんな娘?
はいっ! わたし、赤杢(あかもく)ぎばさです! 髪の毛はアカモク、カバンにはヒトデ、萌える瞳は天使の炎! 人呼んで渚の妖精ぎばさちゃん! 海藻アカモクの販売促進キャラクターです! 毎日Twitterでアカモクのことや塩竈のことをつぶやいています! 最近では「飯テロ」も人気なんですよ。 身長は152cm、体重はヒミツです! ヒントをあげるとアカモク43kg分です。体重わかります? 髪の毛はふだんは赤いんですが、感情のたかぶりによる体温上昇で髪が緑色になります! アカモクに火を通した時と同じ! これがッ! 銀波藻湯通現象(ギバサボイルドフェノメノン)ですッ! そして、必殺技はサルガッソーホールド! 髪の毛のアカモクを利用して首肩肘膝のすべてを極める技! これでCQC(近接格闘)が多い日も安心です。当然必殺なので必ずころ(ry
ぎばさちゃんが生まれるまで
……物騒なことを言い始めたので再度バトンをこちらに(笑)。
★★★★★★
ぎばさちゃんは以前のこの連載でも取り上げた「島ソン」で生まれました。「島ソン」は東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県塩竈市の離島浦戸諸島を舞台としたハッカソン。島の課題解決がテーマでした。
この中でテーマとしてあがったものの中にアカモクがあり、Twitter BotやFacebookページと並んで進行したのがこのアカモクの萌えキャラプロジェクト「渚の妖精ぎばさちゃん」なのです! しかし、そもそもなぜアカモクなのでしょうか?
●アカモクとは?
アカモクは写真1にあるように枝分かれした房状の海藻です。これを湯通しして叩いて刻むとメカブのように強力な粘りが出ます。これをご飯にかけたり、味噌汁に入れたりして食します。磯の香りとヌルヌルネバネバとシャキシャキが共存する食感がおいしい逸品です。
写真1の上のように茹でる前は赤茶色……モノクロですね……んん、まあ赤茶色なのですが、茹でたあとは下のように鮮やかな(涙)緑色になります。ぎばさちゃんの髪の毛の設定はここから来ています。
今まではアカモクというと、ぎばさちゃんのサルガッソーホールドのごとく船のスクリューに絡みつくためかなり嫌がられる存在でもありました。しかし、近年栄養価の高さから注目が集まってきたことで塩竈でも「シーフーズあかま」さんを中心にアカモクを特産品として売り出そうという動きが出てきています。
ところで、この記事を読んでいる皆さんでアカモクをご存じの方はどのくらいいらっしゃいますか? 塩竈でこれからブランド化していきたいと思われているアカモク。残念ながら知名度はいまだ高くありません。そこでぎばさちゃんを入り口にアカモクをいろいろな人に知ってもらおうと、ぎばさちゃんは活躍しているのです。
震災復興も時が流れることでフェーズが変わり、災害への対応の色合いよりも地域振興の色合いが強くなってきています。地域を振興するにはまず人に来てもらうこと。そして、来てもらいたくなるためにも、美味しいものを紹介すること。ぜひぎばさちゃんのTwitterを見てください。いつも何かおいしそうなものを食べているはずです。塩竈に、東北に、遊びに来てもらうため、日夜「飯テロ」に励んでいるのです! おいしいものを食べるための屁理屈という説は却下します(笑)。
●コンセプトからイラストへ
キャラクターを作るにはまずコンセプトから。ぎばさちゃんの場合はこんな経緯です。
アカモクは秋田県では「ぎばさ」という名前で以前から食べられていました!
・「つばさ」という女の子がいるなら「ぎばさちゃん」もありでしょ!
・高杢(たかもく)という苗字があるなら、赤杢(あかもく)という苗字も良いよね! ということで、名前は「赤杢ぎばさ」に。
・アカモクはネバネバした海藻なので、「粘る」と「ぎばさ」を合わせてさらに「ネバーギブアップ」とかけた決め台詞として「ねばぎば」!
・ネバネバを特徴にも出そうということで、「涙がネバネバ」というコンセプトも追加
・アカモクは火を通すと赤っぽい色から緑へ変わるので、髪の毛の色がテンションで変わるように!
キャラクターの特徴もこうして決まりました!
しかし、萌えキャラなのにメンバーの誰も絵が描けません……。ここでは、クラウドワークスを使うことで、なんとコンペ形式で募集ができました。
涙がネバネバとか、こんなコンセプトで「本当に可愛くなるのかよ?(苦笑)」とコンセプトを作った人間も思うものでしたが、コンペには30件以上のデザインが寄せられ、上がってきたイラストはとても可愛らしく、絵描きさんの凄さを思い知るものでした! キャラクターデザインには白飯ザリガニさんのものを採用。現在もTwitterを中心にぎばさちゃんは活躍中です。「ネバネバな涙」もご覧のとおり(イラスト2)可愛い感じに仕上がりました! ちょっと昭和のアニメ風味ですね。
なぜ萌えキャラ?
なぜ“萌えキャラ”であって“ゆるキャラ”ではないのか? 最大の違いは「ファンによる拡散効果」です。Twitterで好きなキャラの絵を描いている方ってよく見かけますよね? ああいった感じでの拡散が行われやすいのです。
また、基本的に人型なので、ゆるキャラと違い「ストーリーを作りやすい」のも大きなポイント。マンガにしてもらいやすいということです。
ゆるキャラは萌えキャラよりも対象は広く取れますが、「ふなっしー」や「くまモン」のように大ヒットするキャラは一部。萌えキャラはファンのつきやすさとファンによる拡散で、ゆるキャラよりも宣伝効果が高くできると考えています。実際にTwitter上ではファンの皆さんからぎばさんちゃんのイラストが寄せられています。「#ぎばさちゃん」でTwitterを検索してみてください!
●ぎばさちゃんのライセンス
ぎばさちゃんは積極的に二次創作(ファンによるイラストなどの創作)を推奨しています。アカモクの製品のパッケージと震災復興イベントには個人・法人を問わず無償で使用可能です。また、個人によるスマートフォンアプリの開発を促進したいため、かなりゆるいライセンス形態としています。詳細はサイトのガイドラインをご覧ください。
♥渚の妖精ぎばさちゃんガイドライン http://gibasachan.com/guideline
●ぎばさちゃんには3Dモデルも スマートフォンアプリ、とくにゲームアプリを作りやすくするために、ぎばさちゃんには3Dモデルデータもあります(写真2)。
♥ダウンロードリンク https://github.com/koizoom1/gibasachan3D/
この3Dモデルデータはヒューマンアカデミー仙台校の授業の中で作成されました。制作を担当したのは仙台校ゲーム科グラフィック専攻の学生・萩原佳央瑠さん(2年)、小林悠さん(2年)、新沼伊緒奈さん(2年)ら3名。
この3Dモデルを作るために三面図も用意しました(イラスト3)。背面の情報もあるのでフィギュアなどの立体物を作るのに役立ちますし、イラストを描く際にも役に立ちます。
ところでこの3Dモデル、Blenderで読み込むとバグって、首から足が直接生えている仄暗い水の底から這い出たようなおぞましいクリーチャーになってしまいます。ちゃんとした形にするための手順が現在有志によって公開中です。しかし、このおぞましさが逆にクリエイターの創作魂を呼び起こし、H.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話になぞらえ「神話生物ぎばさ」(イラスト4)と呼ばれ、ニコニコ動画にはこの神話生物が踊る動画まで上がっています!
♥【MMD】神話アイドルぎばさちゃん☆涙のルルイエライブ【ねばぎば!】 http://www.nicovideo.jp/watch/sm25341827
こういった3Dモデルのための設定が応用され、ファンの手による羊毛フェルト人形まで生まれています!(写真3)
ぎばさちゃんアプリも!
この本の読者の皆さんの多くがそうであるように、筆者もIT系の技術者です。その技術があるなら使わねば!ということで、ぎばさちゃんのiOSアプリを作成いたしました。その名も「渚の妖精ぎばさちゃん 塩竈クエスト」。ぎばさちゃんを主人公にしたスタンプラリーアプリです(図1)。アプリを起動すると、ぎばさちゃんが涙ながらに塩竈の行きたいスポットを教えてくれます(図2)。
●まちあるきで使いたい!
ぎばさちゃんが生まれることになった「島ソン」を開催したコミュニティ「Code for Shiogama」は現在隔月ペースで塩竈の“まちあるき”を行っています。この“まちあるき”で行ったスポットをチェックポイントとしてアプリに登録してあります。 そして、これからはこのアプリを使ってまちあるきを行うことで、ナビを簡易にし、さらに新しく見つけたスポットを足すというサイクルを回していきたいところです。
●オープンソースで公開します!
このアプリはオールSwiftで作っていて、リリース後、オープンソースで公開します。画像ファイルとチェックポイントのCSVを差し替えるだけで「各地域版」を作ることができる形にします。チェックポイントデータはクラウド上に置いたほうが更新も楽なのですが、今回は初学者が簡単に「各地域版」を作れるようにという配慮から、あえてCSVとしています。
各地に存在する萌えキャラ。このアプリがそれぞれの地域の萌えキャラ版が出て各地域のまちあるきに使われ振興に役立つ。そんな未来になればと思っています。
♥以下のリンクで公開します(リリース後) https://github.com/koizoom1/gibasachanStamp/
最後に
ぜひ、ぎばさちゃんのTwitterをフォローしてください。アカモクの情報はもちろんのこと、塩竈の情報、そして東北のおいしいところ情報も入ってきて、東北に、塩竈に、遊びに来たくなること請け合いです! 震災復興へねばぎば!
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Updated on 2 24, 2013 by