今年も暑い夏がやってきた!~石巻ハッカソン開催~
7/26~28にわたって第2回石巻ハッカソンが開催されました。このハッカソンは2012年の7月に開催された第1回に続くイベントで、地元の若者たちにアプリ開発を体験してもらいプログラムの楽しさを伝え、ゆくゆくはITによる地域活性化を担う人材を生み出すという大きな目標があります。このイベントを主催しているのはイトナブという石巻のコミュニティです。イトナブとは「IT」×「営む」×「学ぶ」の造語で、「石巻の次世代を担う若者を対象にウェブデザインやソフトウェア開発を学ぶ拠点と機会を提供し、地域産業×ITという観点から雇用促進、職業訓練ができる環境づくりを目指している」というのが活動の趣旨です。
今回はイトナブ主催者である古山隆幸氏を中心に石巻の若者たちが運営に携わり、古山氏がめざす「震災10年後の2021年までに1000人の開発者を石巻から生み出す」という理念のもと、Hack For Japanのスタッフがプログラムを教える講師役としてこのイベントをサポートしました。ハッカソン開催場所は昨年に引き続き、石巻工業高校で行われました(こちらにイトナブによる開催概要が見られます)。今回の石巻ハッカソンでテーマとして掲げられていたのは「石巻の若者を触発させる」でした。“開発の経験を通して、あらゆる若者たちが彼ら自身の行動や考えに触発される何かを手に入れて欲しい”というイトナブ古山氏の熱い想いが込められていたように感じました。
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「石巻をHackしてやる」Tシャツで気合い十分の参加者。コードメッセージの書かれたHack For JapanのTシャツと記念撮影 |
「IT Boot camp部門」、「チャレンジング部門」、「どや部門」を設けて同時並行で開催
あらゆる若者たちを触発させるために、通常のハッカソンとは違い、石巻ハッカソンではさまざまな人が参加できるようプログラムの習熟度別に「IT Boot camp部門」、「チャレンジング部門」、「どや部門」と3部門を設け同時並行で開催されました。
「IT Boot camp部門」は、開発の経験がない人でも3日間でアプリを実装するところまで体験してもらうことを目的とした部門です。参加者の中には高校生を中心にPCを使った経験が少ない方もいるであろうと想定されていたため、昨年の石巻ハッカソンでも利用実績のあった、Corona SDKという誰でも簡単にアプリ制作ができる開発キットを使って進めていきました。
“Coronaとは、サンフランシスコのCorona Labs社が開発・販売している、Android/iOSをターゲットとしたマルチプラットフォームアプリケーション開発のためのフレームワーク及びSDKの名称です。Coronaは、OpenGL ESのグラフィクス処理とLua言語によるスクリプティングにより、ゲームなどの2次元のアプリケーションの開発に適した構造を持っており、画面へのコンテンツ描写が処理の中心となるアプリケーションの開発に適したものとなっています。”――前回の石巻ハッカソンBLOGより。
またプログラミングすることなくPhotoshopを使ってアプリ開発ができるCorona SDK用のPhotoshopプラグインツールであるKwikを用いた教室もIT Boot camp部門では開催されました。
“Kwikはデザイナーやイラストレータ向けのツールでインタラクティブなeBookやコミック本をCoronaで作りたい人にはとても便利なツールです。”――とKwikについてはCoronaのサイトに書かれています。今回のハッカソンでも、実際にPhotoshop経験のある高校生や社会人がPhotoshopで制作したグラフィックをCoronaで動かし、最終的にAndroidアプリにすることができるようになりました。IT Boot camp部門の3日間にわたる講習はステップ形式でハンズオンによって進められていきました。
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IT Boot camp部門(Corona SDKの講習風景) |
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IT Boot camp部門(Corona Kiwiの講習風景) |
「チャレンジング部門」は、開発を学んでまだ日が浅い若者を対象にした部門です。この部門の参加者で注目されていたのは、昨年のIT Boot campで初めて開発を経験した第1回石巻ハッカソンの卒業生や東北で定期的に開催されている開発講習イベント「東北TECH道場」に通いスキルを着々と身に付けてきた若者たちでした。開発を初めてまだ間もない若者たちではあるものの技術を磨いてきた彼らには、「この3日間ひたすら開発に集中し、まわりをあっと驚かせるようなアプリをつくる」という意気込みが感じられました。チャレンジング部門では、チームで参加される方もいましたし、個人で参加して当日にチームを組んで開発を行うという方も見られました。
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熱い意気込みが伝わってくるチャレンジング部門 |
「どや部門」は、開発経験者で仕事として携わっている、あるいは既に何個もアプリを開発しているなどといった高いスキルを持った方たちが参加する部門です。「石巻の若者たちに3日間で最高にすごいものをつくってレベルの高さを見せつけ、触発する」という意味合いから「どや部門」と命名されました。
「どや部門」でファシリテーションをとっていただいたのは、デザイナーでありSimejiを中心としたモバイルプロダクトの制作に携わっている矢野りん氏です。矢野氏にはデザイナーとしてどや部門に参加してもらうことに加えて、どや部門に参加する開発者のコミュニケーションをとりまとめ、石巻ハッカソン開催前にアイデアソンを実施してプロジェクトの“あたり”をつけていくといった、ハッカソン運営面でもサポートいただき、さらに最終的には“どや”と参加者を圧倒する成果まで披露していただきました。
開催前からのアイデアソンで数々のアイデアが生まれる
今回は講師や運営スタッフ、各部門の関係者については開催前からGoogle+でコミュニティをつくりオープンな環境で情報共有を図っていました。そのため「どや部門でアイデアソンが行われる」といった情報が刺激になり、「チャレンジング部門でもアイデアソンをやろう」といった流れを生み相乗効果が得られていました。
そのアイデアソンはオフライン/オンラインで行われ、チャレンジング部門では「消費カロリーに応じたメニューを表示する健康系アプリ」、「ご当地キャラがあちこちを歩いているARアプリ」、「ブレスト用アプリ」、「振られたという言葉に反応する慰めアプリ」などが、どや部門では「無限の録画」、「子供でも手軽に扱えるモデリングができるアプリ」、「ユーザーがポテンシャルに気づいて行動を起こせる気づかせ系アプリ」などのアイデアが出され、これらアイデアをもとにGoogle+上でさらに議論を重ねていくようすも見られました。
石巻ハッカソン、いよいよスタート!
7/26日の午後からハッカソンがスタート。古山氏からは「石巻には若者たちが活躍できるフィールドが少ないがITには無限の可能性がある。エンジニアのスキルを学べば石巻から世界に挑戦できる人材が生まれると信じて邁進している。この3日間で何かを得て欲しい。全国からプロのエンジニアが参加しているので、彼らと接してぜひ自分の学びにしてください」といった開催宣言が行われました。
続いてHack For Japan及川からは、ハッカソンそのものについて、Hack For Japan活動の説明がありました。さらに各自の自己紹介を経て、それぞれの部門に分かれて石巻ハッカソンが開始となりました。石巻工業高校で行われていたため、部門ごとに各教室に分かれての作業となります。教室内の黒板を使ってのアイデア出しなども見られ、学校での開催ということで、いつものハッカソンとは違った雰囲気で行われ、3日間をかけてそれぞれが最大の成果をめざして開発に取り組んでいきました。ハッカソン開催中は、ハッカソンに取り組むだけでなく、ヤフー復興ベースを訪問したり、石巻復興バーで飲んだりなど、石巻を楽しむ機会がありました。
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黒板を使った議論も |
成果発表。IT Boot Camp部門やチャレンジング部門でいくつもの成果が。そしてやはり、どや部門は“どや”だった!
最終日には各部門から成果発表が行われ、各部門さまざまな成果が出されました。
IT Boot campの部門では「ビリヤード」、「エアホッケー」、「太鼓をたたくと音が出る(corona wikiにも演習として出てくるものを発展させたアプリ)」、「画面上に並んだ数字をボールではじき飛ばす」、「シルエットの木に触ると鳥が飛んだり、時間がたつとイベントが起こる時計アプリ」など、はじめてプログラミングを体験した方がほとんどにもかかわらず、多様なアイデアのアプリが発表されました。
またKwikを使ったチームでは、「オス・メスを仕分けるひよこ仕分けアプリ」、「ピンボール」、「石巻の名産をモチーフにしたパズルゲーム」、「納豆をひたすら混ぜて、回数が増えていくとイベントが発生するアプリ」、「ボーリングゲーム」など、こちらもユニークな発想のアプリが発表されました。
このIT Boot campにて優秀賞として選ばれたのは高校一年生が制作した「画面上を逃げる顔文字をタップして捕まえる鬼ごっこゲームアプリ」、高校三年生が制作した「先生のキャラクターを海の底から救出するゲームアプリ」、同じく高校三年生が制作した「先生のキャラクターをタップすると人形ように触れるアプリ」が選ばれました。ポイントとしては「アイデアが良かった」、「デザイン的に面白い」、「工夫しようという試みがあった」、「発表を見ている方たちが、楽しんでいた」といった点で高い評価を得ていました。
チャレンジング部門では「未来へのキオクAPIを使い、どこにいてもご当地キャラが出入りし、タップすると現在の宮城の情報が得られるARアプリ」、「被災地でがんばるママ向けの子育て・食育系アプリ」、「わんこそばをモチーフにしたゲームアプリ」、「石巻のロゴをパズルにした落ちものゲーム」、「Google Play ServicesのActivity Recognition APIを利用して、徒歩、自転車に乗っている、クルマに乗っているなどユーザーの行動を表示するアプリ」などが発表されました。
チャレンジング部門での優秀賞は「学スケ」と名付けられた学生用時間割スケジューラーアプリです。このアプリは大学一年生とプロのエンジニアのチームにより制作されたもので、大学生の「自分の欲しいアプリを作る」ことを意識して思いついたアイデアから生まれました。石巻工業高校の生徒に捧ぐとされたこのアプリは、「普通科の学校用時間割アプリでは、機械製図など特殊な教科が入力できず自分の時間割を作れない」という課題を解消することをめざしました。
このスケジューラーは時間割をみんなで共有でき、さらには宿題を忘れないようにするアラーム機能も付いています。自分の身近なところからの発想であるということや完成度において評価されました。このアプリを思いついた大学生は、昨年の石巻ハッカソンでIT Boot campに参加した方で、corona SDKを1年、javaを半年ほど学んでおり今後が楽しみな存在です。
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大学生による「学スケ」の発表 |
どや部門では「corona SDKのテストが行えるアプリ『
Corona SDK test runner』」、「きれいにデザインされた背景色が選べるアラーム時計」、「防災に関するツイートを発信するアカウント
特務機関NERVの情報をまとめた『
NERVまとめ』サイト」、「困ったこととその解決策をつのる他力本願コラボレーションツール『ポテンシャライザー』」、「国会議員の所属政党履歴をgitで管理」、「ジオキャッシングというGPS機能を備えた機器を使って現実世界で行うアウトドア宝探しゲームにおいて、Google Glassを使って宝の場所が通知されるアプリ」などが発表されました。さすがにプロの開発者たちが集まっている部門だけあって、アプリやサービスの目的が明確かつデモのレベルも高く、参加者はとてもいい刺激を受けたのではないでしょうか。
印象的だったのは「NERVまとめサイト」をつくった石森大貴氏のプレゼンでした。石森氏は石巻市出身で実家が被災されたとのことで「石巻の中高生や大学生にプラスになれば」と参加されたそうです。石森氏は「自分で何かをやると世の中が変わるよ」ということを震災時の停電を防ぐ目的で行われた特務機関NERVのヤシマ作戦でのエピソードなども交えて話していただきました。
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当初は公開する予定はなかったが、ハッカソン開催中に山口・島根の豪雨災害が発生したため公開された「NERVまとめサイト」 |
どや部門における優秀賞は前述の矢野氏に開発者2名のチームで制作された「ボクスケ」と名付けられたアプリです。3Dプリンターで出力できる3Dモデルを小学生でもつくれることをめざしたアプリという、とても難易度の高いアプリをハッカソンで形にしてしまう圧倒的なレベルの高さで文句なしの優秀賞でした。このアプリの素晴らしい点は、3D CADで使われるz軸の難しさを解消した点にあります。z軸を2Dの色の濃淡で表現することにより、直感的に3Dモデルがつくれるというものです。デモにおいても実際にモデルをつくるところから、3Dプリンターで出力できるCADデータに書き出すまでが見られ、まさに“どや”という完成度で、すべての参加者に驚きを与えていました。
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どや部門で優秀賞となったボクスケチーム |
すべての参加者の成果発表が終わった後、古山氏の総括が行われました。
「昨年、第一回目と比べて思ったのはIT Boot Campのレベルの高さ。とてもクオリティが高かったと思います。また、どや部門は本当にどやでした。同じ時間を使って開発してこれだけスゴイものをつくっている。上には上がいるのを実感できたのではないでしょうか。またチャレンジング部門ではIT Boot Campで学んでいた子が優勝できたのがうれしかったです。これからももっと開発者をめざす人の輪が広がっていって欲しいと思います」
こうして3日間にわたる第2回石巻ハッカソンが幕を閉じました。
次の石巻ハッカソンはもうすでにスタートしている!
今後もHack For Japanでは「震災から10年後の2021年までに石巻で1000人のIT技術者を育成する」というイトナブの目標を支援していきます。
このブログを読んで興味がわいた方は、ぜひ来年の石巻ハッカソンへ参加して実際の雰囲気を楽しんでください。
最後に今回の石巻ハッカソンに参加いただいた方、講師や運営に携わっていただいた方など、すべての方にお礼申し上げます。ありがとうございました。また参加された方にはアンケートに答えていただいていますので、そちらは集計後、追ってご報告させていただきます。
参加された有山氏によるITproに掲載された石巻ハッカソンレポート